江戸ワンダーランドに伝統文化を担うプロフェッショナルが集結! ‟江戸の食”に酔いしれる「夏の宴」をどう楽しむ?

  • 文:Pen編集部

Share:

江戸ワンダーランド代表のユキ・リョウイチさん(左)「料理研究家」の冬木れいさん(右)。ふたりの出会いから生まれた「春の宴」、食を通してどんな感動が伝えられるか、広がる可能性に話も尽きません。

――山々の緑が芽吹く春爛漫の日、栃木県にある「江戸ワンダーランド日光江戸村」にて、江戸料理と伝統芸能を愉しむ「春の宴」が開催されました。江戸時代から愛される「鮨」「蕎麦」「酒の肴に飯」。旬の食材を滋味あふれる江戸料理に仕立て、三味線の音色を聴きながら、五感をフルに使って味わい尽くすという至福の宴。仕かけたのは、江戸ワンダーランドの代表ユキ・リョウイチ氏。料理監修に江戸料理の造詣が深く、料理サロンの主催やテレビドラマの料理監修など広く活躍する冬木れい氏を迎え、江戸の食の世界を披露しました。両氏に「食」をテーマにしたこのイベントについて、開催のきっかけや今後の展望と、「夏の宴」について語っていただきました。

ユキ:これまで、江戸の生活文化に着目した「江戸生活文化伝承館」の開設や、「江戸里山プロジェクト」など、さまざまな視点から生きた江戸の伝統文化を発信していますが、以前から「食」をテーマにしたイベントをやってみたいと思っていました。食べることはエンターテインメントであり、食事は文化をいただくことですから。そんな時、「幕末グルメ ブシメシ!」というNHKのドラマを江戸ワンダーランドで撮影することになり、そこに登場する江戸料理が素晴らしく、どんな方がつくっているんだろう、と思ったことが冬木さんとの出会いにつながりました。食のイベントをご相談したところ、快く引き受けてくださり、「春の宴」という形に成長していったのです。

江戸時代の学問書『本朝食鑑』にも上質であると記された「伊勢・桑名」から取り寄せた、はまぐり。ふっくらとやわらかな身は瑞々しく、その美味さは歴然です。

冬木:「春の宴」のお話を伺って、煌びやかな料理を盛り込むよりも、あえて「めしと汁、香の物」という古来の落ち着きあるご飯づくりを基軸としてご提案したいと思いました。江戸料理のよさは、馴染みのある食材を使って、奇をてらわず、季節感のある暮らしに根づいた落ち着きにあります。江戸料理は、なぜか懐かしくなるような感覚のお料理ばかりです。今回、江戸ワンダーランドに何度も通ううちに、スタッフのみなさんが、さまざまなスキルをもっていて、なんでもこなすことに驚きました。たとえば食材の調達力もすごい! 季節の食材を信頼できる人たちから調達してくれ、ひとつひとつが見事なんです。食材調達は、日頃の信頼関係をもとにした人間力がすべて。だからこそ、人と人とがしっかりと繋がりあう江戸ワンダーランドには、今後もよい食材がいっぱい集まってくると思いますよ!

ユキ:あえてネットワークをつくっているつもりは全然ないんです。きっと「江戸」というものが人を惹きつけるのではないでしょうか。社員のカリキュラムとしては、まず「包丁をきちんと使えること」を大切にしています。他には「江戸ワンダーランドで暮らす動物たちの世話ができること」「野菜がつくれること」「寿司が握れること」……。人間の根本的な能力をしっかり身につけてほしい、と考えています。この「春の宴」を通じて、冬木さんの江戸料理の知識が当社のスタッフへと伝承が始まっている、そんな実感がありますね。

豆乳を練り込んだ蕎麦、つゆにも豆乳を使った「白そば」。伝統的な江戸蕎麦から生まれた新作は、まさに温故知新の賜物です。

――初物が大好きな江戸っ子は、移りゆく季節の美しさを愛でながら、旬の食材を謳歌していました。「春の宴」では、芸術品のように美しい「出流江戸そば」、一流職人が握る江戸前の「辰巳鮨」、居酒屋「なめや」では桑名の焼き蛤や筍、鬼平犯科帳でもお馴染みの芋なますなど、グルマンの鬼平ならずとも舌鼓を打ってしまう逸品がラインアップされました。

冬木:ユキさんが、今後、江戸野菜の菜園づくりも考えているということをヒントに、「糠床(ぬかどこ)」をメインに据えてみようという企てが閃きました。手間ひまかけてずっと面倒を見続けなければいけませんが、今後のことを見据えるつもりで、仕掛けちゃいました(笑)。そして「春の宴」のメイン食材のひとつである筍やこんにゃくも、ぬか漬けにしました。そして鶏肉もぬか漬けにしてから炙りました。これは風味が格別です。

季節を盛り込んだ「春の膳」。旬の旨さを活かした優しい味わいだからこそ、一つひとつ素材のもつ力が伝わってきます。

ユキ:今回は自分も厨房に入り、料理をしたんですよ。「春の宴」を機に、若い人や子どもたちが江戸料理の味わいに触れ、自分でもつくってみたい、と思うきっかけになってくれたら、とても嬉しいです。伝統文化と言うと堅苦しく構える方もいるかもしれませんが、現代にも生き続けているもので、「食」はとてもわかりやすい入り口になるのではないでしょうか。

冬木:そうですね。伝統というと古いものというイメージがありますが、江戸料理には豆腐や玉子、大根などいまはありきたりの食材だけれど、簡単で面白い食べ方がいっぱいあるんです。今回「出流江戸そば」は、豆腐をつなぎにしていたことがあったと江戸の文献に見つけて、それをヒントに濃い豆乳を使った「白そば」という新しい蕎麦を考えました。握り鮨も江戸時代では、素早く食せるファストフードでした。お腹にたまるよう、シャリはかなり大きかったようですが、時を経て、いまは、ふわりと握る小さなサイズになりましたね。食は常に進化しているんです。

常に生きた江戸の魅力をさまざまな視点からアプローチし続けている、ユキ・リョウイチ氏。自由闊達な精神が伝統を未来に繋いでいます。

――おいしいものは人を幸せにする。ユキ氏はそれを「口福(こうふく)」と表現しました。和やかな雰囲気の中、老若男女の笑顔が見られた「春の宴」。それぞれの料理には、マイスターが選んだ日本酒がマリア―ジュされ、料理とお酒、それぞれのおいしさを一層高めていました。そして、宴を彩ったのは料理だけではなく、屋形船から流れる新内の響き、艶やかな端唄、夜空に吹き上がる命がけの手筒花火など。その道のプロフェッショナルが集結し、夢の宴が実現したのです。さまざまなシーンから江戸の魅力を発信し続けるユキ氏に、今後の展望を聞いてみました。

ユキ:もちろん冬木さんのご協力が前提ですが、夏の食材、秋の食材、そして冬……。食を通してさまざまな伝承をして行きたいですね。今回、たくさんの食のつくり手との出会いがありました。だからこそ、一度で終わらせてはいけないと、8月に「夏の宴」を開催することを決めました! そこからまた、どんな出会いがあり、なにが生まれて来るのか、とても楽しみです。同時に、海外に向けても正しい日本の姿を伝えなくてはいけないと思っています。外国に行くたび、食だけではなく、日本文化のあやまった解釈が蔓延しているのを目にするので、たくさんのコンテンツがギュッと凝縮したこの場所から、海外へと発信していけたらと思います。

冬木:海外では「DASHI(出汁)」という言葉もポピュラーになっていますよね。ところが残念なことに、出汁は日本でもきちんとつくられなくなっている状況なんです。海外の方が「いいな」と思ってくださるうちに、日本も地固めをしておかないと!

ユキ:まずは、きちんとしたもの、本物の素晴らしさを知ってもらうことが大事ですね。それをきっかけに掘り下げ、ひも解いていく。たとえばおいしい江戸料理を食べることで、江戸の違うジャンルに興味をもって、そこから得た知識を現代の生活に取り入れ楽しむのは、素敵なことだと思います。未来に向け、江戸の伝統文化を生きたコンテンツとしてどう伝えて行くか、それは大きな課題でもあり、非常にやりがいのある役目を担っていると感じています。

――2日間だけの特別な宴。その味わい、体験は記憶となって残ります。五感を刺激する「食」から導き出した、懐かしくも新しい江戸料理。先人たちは、築いてきた文化を現代に受け継ぎ、美しく昇華させたこの宴をどんな気持ちで眺めるでしょうか。『春の宴』の手応えを受け、8月には『夏の宴』の開催を決めた、と言うユキ氏。点が線に繋がり、美しい季節の移り変わりを彩る宴は、これからどんな形で人々を口福(こうふく)にするのか、期待が高まります。

宵闇に包まれた幻想的な江戸の町。新内の哀愁ある唄や、美しい花魁道中が祭りのひと時を鮮やかに彩りました。

『江戸ワンダーランド歳時記~夏の宴』

開催日時:2018年8月下旬
開催場所:江戸ワンダーランド 日光江戸村
栃木県日光市 柄倉470-2
TEL: 0288-77-1777
※詳細は下記HPまで
http://edowonderland.net/