“世界で最も複雑な時計”から2つの特殊機構を取り込んだ、モダンなスタイリングのユニークピース。

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    ヴァシュロン・コンスタンタン メートル・キャビノティエ・レトログラード・アーミラリ・トゥールビヨン

    “世界で最も複雑な時計”から2つの特殊機構を取り込んだ、モダンなスタイリングのユニークピース。

    文:笠木恵司

    時計ジャーナリスト。1990年代半ばからスイスのジュネーブ、バーゼルで開催される国際時計展示会を取材してきた。時計工房などの取材経験も豊富。共著として『腕時計雑学ノート』(ダイヤモンド社)

    3人の時計師が開発した世界で最も複雑な懐中時計の機構から、2軸で回転するトゥールビヨンとレトログラードを組み込んで製作された新作。ドーム状のサファイアクリスタルの下に「アーミラリ天球儀トゥールビヨン」がある。

    ヴァシュロン・コンスタンタンは昨年、57もの機能を搭載した史上最も複雑な機械式時計を発表しました。大型の懐中時計で、時間などを示す針だけでも表側に19本、裏側でも12本の合計31本にものぼるといえば、その複雑さが想像できるのではないでしょうか。この驚異的な懐中時計は同ブランド創業260周年を記念して公開されましたが、特注でたった1本だけ製作されたユニークピースであり、すでに個人の所蔵となっています。

    この“世界一複雑な懐中時計”から2つの特殊な機構を取り込んで新しく製作されたのが、この「メートル・キャビノティエ・レトログラード・アーミラリ・トゥールビヨン」です。

    まず目に入るのが、9時位置の大きなドーム状サファイアガラスですが、この下に「アーミラリ天球儀トゥールビヨン」が配置されています。これは18世紀フランスの時計師が製作した天文時計に組み込まれていた天球儀を模して設計されたことから、このように命名されました。2つの軸をもつトゥールビヨンであり、横方向だけでなく縦方向にも回転するため、時計の厚みを増さないようにドーム状のサファイアクリスタルで覆ったと考えられます。

    トゥールビヨンのテンプを往復振動させるヒゲゼンマイも球体になっており、あたかも機械仕掛けの心臓のように伸縮を繰り返します。その精緻で美しい動きはいつまでも見飽きることがありません。ちなみに、この球体ゼンマイそのものは1814年に開発されましたが、現代では極めて希少なものとなっています。

    この大型のトゥールビヨンがダイヤルの左半分を占めており、その右側に表示機構をまとめていますが、時間と分ともに針が同軸のレトログラード。分は60分のところで、時間も12時を表示し終えると、針が元の位置にフライバックして再び表示を開始します。

    これらの機構(4つの特許出願中)をモダンなスタイルでデザインしていることも優れた特長であり、複雑なメカニズムをアートとして楽しめるスケルトンになっています。ジュネーブ・シールを取得しているので精度・品質ともにまさに折り紙付き。機械式時計のファンを魅了するのは間違いない複雑時計ですが、現在のところ価格未定。ケースバックにフランス語で「ユニークピース」とエングレーブされた一点ものとなっています。

    “世界で最も複雑な時計”から2つの特殊機構を取り込んだ、モダンなスタイリングのユニークピース。

    ケースサイドからもトゥールビヨンの回転が見られる。ヴァシュロン・コンスタンタンのシンボルマークである「マルタ十字」のモチーフが30秒ごとに姿を表すという。

    手巻き(パワーリザーブ約65時間)、ホワイトゴールド、ケース径45.70㎜、ケース厚20.06㎜、ストラップはブラックのミシシッピ・アリゲーター。価格・発売時期ともに未定。