人気スタイリストによるナビゲートとともに、ニューヨーク発のファッションブランド「コーチ」の魅力に迫るインタビュー企画の第一弾。躍進を続けるトップブランドの、知られざる魅力の一部をお届けします。

2013年にスチュアート・ヴィヴァースがエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任して以来、レディ・トゥ・ウエアのフルコレクションを本格始動させるなど、急速にクリエイションの幅を広げている「コーチ」。昨年75周年を迎えた老舗ブランドが、いままた注目されているその訳とは? 本誌をはじめ、数々のメディアで最新のスタイルを提案しているスタイリストの池田尚輝さんに、コーチに惹かれる理由を訊いてみました。
レザーグッズブランドが始めたレディ・トゥ・ウエア。その本気度はいかに?

「正直、コーチがコレクションラインを始めると聞いた時は、ここまで本格的になるとは想像していませんでした」と語る池田さん。2015年秋冬シーズンにロンドンのファッションウィークでコレクションを発表し、以来シーズンを追うごとに注目も高まってきています。
「実際に服を見てみると、やはり『本気だな』っていう印象を受けました。コーチにはこれまで皮革製品で培ってきた技術力があるから、それをウエアに落とし込んでいる分、細部のつくり込みがかなりしっかりしていますよね」

そんな池田さんが手に取ったのが、ブラックとブラウンのライダースジャケット。上質なレザーの質感をダイレクトに感じることができる、贅沢なアイテムです。
「このライダースは王道のディテールを踏襲しているにもかかわらず、どこかモダンな雰囲気ですよね。いかつくて武骨なライダースというのは、いまの気分とはちょっと違う。これは革が薄くてキメも細かいから、すっきりと上品に見えます」
ミニチュアの服をイメージしてデザインされたライダースは、大ぶりなジップがアクセント。胸ポケットに付いた恐竜のチャームも、ヴィヴァースらしい遊び心の利いたワンポイントです。

ライダースのライニングにはコーチのストーリーパッチが。コーチではバッグにもすべてレザーのパッチが施されており、品質保証の役割も果たしています。
「以前はトレンド的にも自分の中でもリラックスとかナチュラルなスタイルに傾倒していたので、いわゆるタフでラギッドなイメージのあるレザーの服からはしばらく遠ざかっていました。でも最近は90’sっぽい感じが戻ってきたり、ちょっとフォークロアなイメージのものと合わせるのが気分だったり、またレザーが面白いんです。やっぱりレザーのツヤ感やソリッドな感じは、ほかの素材ではどうしても出せませんからね」

「ブラックのライダースは、フォークロアテイストなカーキのパンツなどに合わせるのが面白いと思います。ダブルのライダースなのにハードに見えないモダンなデザインだから、インナーにストライプのロングシャツをレイヤードで合わせて、ちょっと女性っぽい抜け感のあるスタイリングを取り入れてみてもいいかもしれませんね」と池田さん。さらに、コーチらしい落ち着いたサドルカラーのシングルライダースを鏡の前で試しながら、「こっちはネイビーとエクリュのボーダーニットに、黒のファティーグパンツとスニーカーがいいですね」と、頭の中で即座にスタイリングを組み立てていきます。

左のダブルのライダースには、薄くハリのあるカウレザー素材を採用。ライダースジャケットらしいシャープなシルエット感は残しつつ、ラギッドに見えないモダンな表情に仕上げています。やわらかいラムレザーを採用した右のシングルライダースは、まるでスウェットシャツを着ているかのようなストレスフリーな着心地が魅力。どちらもライダース特有の重い、硬い、武骨といったステレオタイプなイメージとは無縁で、大人らしい上品なデザインです。こんなライダースであれば、レザーに気負うことなく幅広いスタイリングが楽しめます。池田さんのように、新しいアイデアも生まれてくるはず。
池田さんが惚れ込んだ、モダンに魅せるカラーリングの妙。

池田さんに今季の新作の中でいちばん気に入ったバッグを選んでもらったところ、迷わずレザーのパッチワークを施したこちらをチョイス。
「まず個人的なことですが、最近、黒と茶色の組み合わせが好きで、黒い服を着る時には茶色の小物を挿し色感覚で組み合わせています。このバックパックはレザーのパッチワークで70sっぽさを感じさせながら、黒と合わさることによってコンテンポラリーなイメージに昇華されています」
古着好きとして知られるデザイナーのヴィヴァース。古着からインスパイアされたアイデアを都会的なデザインに落とし込む手法は、彼のシグネチャースタイルとも言えます。

「このバッグ、内側にはこんなに小物入れが充実しているのに、外側がすごくそっけなくていいですよね」と池田さん。
「外側に余計な機能がまったく付いていないところが潔くて好感がもてます。当然そのほうが見栄えもいいし、レザーの魅力をダイレクトに楽しめます」
このアイテムに使われているレザーは、野球のグローブからインスパイアされた、コーチを代表する素材の“グラブタンレザー”。使い込むうちにどんどん肌へと馴染み、奥深いツヤも増していきます。
「背中側やショルダーストラップもすべてレザー素材だから、普通のナイロンのバックパックとは背負った感触がまったく異なります」

この日の私服にコーチのバックパックを合わせた池田さん。ブルゾンは渋谷の古着屋で見つけたもの。
「ヴィンテージの要素を感じさせるバックパックには、このカーキのパンツはすんなりフィットしてくれます。ただ、そういう土っぽさとかレトロな感じは好きですが、そのまま70sなスタイルにするのではなく、黒のレザーブルゾンでモダンな感じにもっていくほうがいまっぽいんじゃないでしょうか」
同じ系統の色みや年代のアイテムで合わせるストレートなスタイリングよりも、異なる要素をミックスさせるほうがモダンな雰囲気に仕上がるそうです。そんなアップデートされた感性が、コーチのバッグには宿っています。

そしてもうひとつのお気に入りが、B5サイズのタブレットケース。バックパックと同じくパッチワークのディテールを取り入れたもので、やはりレザーの質感を存分に楽しめる贅沢なデザインです。
「スタイリストはいつもクルマで移動しながら、打ち合わせや服のリースのために編集部やプレスルームを転々としています。担当ページのラフや手帳やiPadなどを裸で持ち歩いていては格好よくないので、こんなサイズ感のケースがあると非常に便利。でもほかにも書類や雑誌といった大きい荷物も多いので、バッグ・イン・バッグとしてバックパックと併用するのがベストですね」

「らしさ」をいまに伝える、“コーチ・コード”とは?
今回、池田さんがピックアップしたアイテムのほかにも、洗練されたウエアや革小物が数多く揃うコーチの春夏コレクション。先進的なデザインが日々追求されているかたわら、根底にあるブランドの価値観も変わることなく受け継がれています。その「コーチらしさ」という部分を伝えているのが、“コーチ・コード”と呼ばれる数々のデザインアイコンです。バックパックに取り入れられたパッチワークもそのひとつ。ほかにも、下の写真にある“ヴァーシティー ストライプ”や、ベースボールのグローブからインスパイアされたステッチなどがあります。由緒正しい老舗ブランドの、普遍的な魅力をいまに伝えています。


スチュアート・ヴィヴァースによるクリエイティブ・ディレクションのもと、現代のモダンなスタイルを打ち出し躍進を続けるコーチ。今回はスタイリストの池田尚輝さんが見た、異なる時代感やスタイルを巧みに取り込むコーチのミックス感覚についてお伝えしました。レザーアイテムひとつ取っても、革の質感やディテールはもちろんのこと、服の合わせ方によっても見え方は大きく変わってきます。そのバランスを見極めモダンなスタイルに昇華されたコーチのアイテムは、スタイリストのように豊富な知識や経験値がない我々にとっても、強い味方となってくれることは間違いありません。
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