モーリー・ロバートソンが語る“ドキュメンタリー”の影響力とは、「この問...
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モーリー・ロバートソンが語る“ドキュメンタリー”の影響力とは、「この問題は他人事ではない」と気づかせてくれること。

写真:殿村誠士 文:和田達彦

モーリー・ロバートソン●1963年ニューヨーク生まれ。81年、東京大学とハーバード大学に現役合格。同年7月に東京大学中退。88年、ハーバード大学卒業。東大在学中にプロミュージジャンデビューを果たし、現在はタレントから国際ジャーナリストまで幅広く活躍中。著書に『よくひとりぼっちだった』(文藝春秋)、『悪くあれ! 窒息ニッポン、自由に生きる思考法』(スモール出版)など。

ドキュメンタリー専門チャンネル「ナショナル ジオグラフィック」は公式Youtubeチャンネルで、アカデミー賞受賞歴をもつ制作会社Grain Mediaおよびノーベル賞とのコラボレーションによる「ナショナル ジオグラフィック ドキュメンタリーフィルムズ」短編映画4作品を無料で配信中。前回の記事ではそのうちの1作品『人として歩む』について、ジャーナリストのモーリー・ロバートソンに感想を聞いたが、今回は『未完成交響曲』という作品を観てもらった。

ロバートソン自身も反省した、無自覚な差別。

「この作品を観た後のことですが、私が10代のころからよく聴いていた多くのヒット曲に、アメリカの黒人ギタリスト、ナイル・ロジャースが関わっていたことにふと気づいたんです」

そう語り始めたロバートソン。ロジャースが半生を振り返ったインタビューを読み、その壮絶さに言葉を失ったという。

「彼は白人しかいない学校にたったひとりの黒人生徒として通い、ひどい差別を受けた。彼にはクラシックやジャズの素養があったのですが、黒人はアート性を追求する音楽では契約してもらえない。食べていくためにディスコミュージックを演奏しつつ、さりげなくその中にジャズのコードを入れていたそうです」

「ディスコミュージック=軽薄」という見方がまかり通っていたし、ロバートソンも自身の音楽活動でディスコミュージックをパロディー的に取り入れたことがあったという。

「ポップで楽しげなロジャースの音楽の裏に、差別との闘いや途轍もない努力があったと知って、懺悔の気持ちでいっぱいになりました。自分の中で、アパルトヘイトのその後を描いたこの『未完成交響曲』とリンクしたんです。『ああ、私もこのドキュメンタリーに登場する白人の少女と同じだ』と」

『未完成交響曲』。南アフリカの旧黒人居住区ソウェトで育ったツェポ・ポーエと、裕福な白人家庭に生まれたリゼ・スハープ。ふたりが所属するオーケストラは、音楽の力を使って長年はびこっている対立を乗り越えようと活動を続けている。両者の目を通して、終わったはずの人種隔離政策がいまも及ぼす深刻な影響を見つめる。

差別撤廃の後に訪れた、格差という新たな問題。

南アフリカは、世界で最も格差が大きい国のひとつだ。1994年にネルソン・マンデラ政権が発足してアパルトヘイト(人種隔離)政策は完全に撤廃されたが、実はその後の立て直しのほうが大変だった。

「それまで白人しか就けなかった仕事に黒人を登用できるようになったものの、教育格差が大きかったため、恩恵を受けられたのは一部の黒人だけで、貧富の差は拡大してしまいました。一方で、アパルトヘイトのおかげで職に就けていたような白人は黒人に押し出され、失業してホームレスになったりドラッグ漬けになったりする人が増えています」

しかし元々裕福だった白人は変わらずに豊かな暮らしをしている。このドキュメンタリーに登場するリゼという少女は、まさにそんな白人家庭を象徴している。

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