映画『アメリカン・ユートピア』が、トーキング・ヘッズを知らない世代にも...

映画『アメリカン・ユートピア』が、トーキング・ヘッズを知らない世代にも響く理由

文:門間雄介

©2020 PM AU FILM, LLC AND RIVER ROAD ENTERTAINMENT, LLC ALL RIGHTS RESERVED

デイヴィッド・バーンによるブロードウェイショーの興奮と感動を記録した映画『アメリカン・ユートピア』が、日本の観客にも同様の興奮と感動を引きおこしている。SNSやネット上の一部の感想を見るかぎり、それは絶賛に近いものだと言っていい。

そういった反応のなかには、バーンのことも、ましてや彼がフロントマンを務めたトーキング・ヘッズのことも知らないという、比較的若い世代のものがまじっている。彼らさえ惹きつける『アメリカン・ユートピア』の魅力とは、そもそもどのような点にあるのか。

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『アメリカン・ユートピア』はきわめてコンセプチュアルに構成されたステージだ。舞台上のバーンと、彼を取りまく11人のバンドメンバーたちは、揃いのミディアム・グレーのスーツに身を包み、歌と演奏を披露しながら、統率のとれた群舞をくり広げる。

通常のセットにあるような、楽器からうねうねと伸びるコード、その先につながれたアンプ、でんと構えるドラムセットは、ここには何ひとつ見当たらない。特殊なハーネスを用いることで、ドラムもキーボードもぴたりと体に装着され、それが彼らの自在な動きを可能にした。余計なもののない簡素な空間を、かぎりなく簡素なスタイルで駆けめぐる、ミニマリズムを基調としたそのステージには、さながらパフォーマンスアートを観るような視覚的快楽がある。

一方で、そういったコンセプチュアルな企みには回収されない、熱く、エモーショナルな何かがこのステージにあるのも事実だ。

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