50年を経て私たちに届けられた、作家・三島の正直な言葉。

『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』

三島由紀夫 著

50年を経て私たちに届けられた、作家・三島の正直な言葉。

木部与巴仁 詩人

三島由紀夫は正直な人だ。だから、思想や信条が違っても悪意をもたない。本書は、自決9カ月前に収録されながら、今年1月にその存在を報じられるまで長く封印されてきた肉声を活字化したものである。質問者は三島作品の翻訳家だが、彼がなんの目的で三島邸を訪れたのか、せっかく収録したものがなぜ封印されたのかなど、疑問の答えは出ていない。その詳細は、未公開テープの発見者である小島英人(TBS)が巻末に記している。 

インタビューの内容は、三島ならこう言うだろう、こう考えるはずと納得することばかりで、過激な言葉を発しているわけでも、特別の秘密を明かしているわけでもない。生前に公開されても問題なかった内容だと思う。そもそも正直な人なのだから、三島に秘密はないのである。自決の日に取った行動などは極秘だったろうが、彼はまず作家だ。思想信条はすべて、作品に書き切っていた。それを読み取るのが読者の力、読者の自由である。 

三島は語る。ベトナムで仏教徒を弾圧したマダム・ヌーについて書きたい。小説のマテリアルは、人生や思想ではなく言葉である。自作の欠点は、構成が劇的すぎること。虚弱だった肉体が鍛えられてから死を意識するようになった。法学部出身らしく、自分の小説は訴訟法の、証拠を追求する手続に似ている。短編「海と夕焼」に描いた、十字軍から奴隷に堕ちた少年の姿こそ自分であり、それを書くことは「告白」だった……。 

自決の翌日、三島の遺体に母・倭文重(しずえ)は実名で呼びかけたという。「公威さん、さようなら」。しかし他人がいなければ、「公威さん、立派でした」と言いたかったと、母は自ら記した。信じるものは違うが、三島はやはり立派だったと思う。その肉声が50 年近くを経て、2017年に蘇った。彼はいまも、生きていると感じた。

『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』

三島由紀夫 著 
講談社 
¥1,620

50年を経て私たちに届けられた、作家・三島の正直な言葉。