オアシス解散からの10年間、 稀代のロックスターが歩んだ道。

オアシス解散からの10年間、 稀代のロックスターが歩んだ道。

文:尾崎世界観 (ミュージシャン、小説家)

アイルランドが誇る格闘家のドキュメンタリー『コナー・マクレガー:ノートリアス』を手がけたギャビン・フィッツジェラルドと、慈善ライブを追った『121212 ニューヨーク、奇跡のライブ』のチャーリー・ライトニングが共同監督を務めた。 ©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED

【Penが選んだ、今月の観るべき1本】

「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」を歌うノエルの横でつまらなそうに座り込んでいるリアムを見た時、この人が好きだと思った。これは、そのリアムがオアシスの解散後に挫折し、這い上がるまでを追った映画だ。

自分自身、別に兄弟とは不仲じゃないし、音楽で稼いだ金で甥っ子にオモチャを買ってあげるのがささやかな楽しみでもある。でも、あれの100万分の1以下だとしても、ステージ袖に向かう薄暗くて細い通路、ステージ裏に届く集まった観客の静かな気配、SEが鳴って歩き出した時の化け物に飲み込まれるような感覚、ステージ中央に向かうまでの観声とぬるい人いきれ、マイク越しに見る「ここが真ん中だ」という確信、それらをちゃんと知っている。

ライブ中、観客の嬉しそうな顔はいつも一瞬で消えてしまうのに、退屈そうな顔だけはいつまでもこびり付いて取れない。ファーストアルバムはよかった。もうあの頃のような曲はつくれないだろう。またそれか。なんでみんな、馬鹿のひとつ覚えみたいにこれを言うんだろう。それはきっと、本当にファーストアルバムがよかったからだ。そんなことは知っている。それでも諦めきれず、新しく出てきたバンドに追い抜かれながら、走ることをまだやめられない。過去の自分が兄だとすれば、自分はずっと兄弟喧嘩をしているのかもしれない。出来の悪い弟としていつも過去に歯向かっている。だからこそリアムの成功が身にしみた。

新しいパートナーと手をつないだり、息子たちと仲良く会話したり、早朝のランニングをしたり。若い頃のイメージとはかけ離れたリアムの姿を見ながら、どうしようもなく元気が出た。悲劇のロックスターを観るのも、もういい加減飽きた。たまには幸せなロックスターが観たい。そんな願いが叶った。


©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED

©2019 WARNER MUSIC UK LIMITED

『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』
監督/ギャビン・フィッツジェラルド、チャーリー・ライトニング
出演/リアム・ギャラガー、ボーンヘッドほか 2019年 
イギリス映画 1時間29分 9月25日よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。
https://asitwas.jp/

オアシス解散からの10年間、 稀代のロックスターが歩んだ道。
Feature Product いまを生きる男たちに似合う、「ハミルトン」というスタイル ③カーキ編
Feature Product いまを生きる男たちに似合う、「ハミルトン」というスタイル ③カーキ編