【タモリの肖像画も公開】ヤマザキマリ展が世田谷で開催 「テルマエ・ロマエ」の原点に迫る

  • 文&写真:はろるど
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『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』より、「ヤマザキマリの部屋」展示風景

「描くことをなぜ生業としているのか。そのすべてがこの場にある」。ヤマザキマリ自身がそう語る『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』が、世田谷文学館で開催されている。代表作『テルマエ・ロマエ』で知られ、漫画、文筆、絵画と多彩なフィールドで活躍する作家の創作の軌跡を、展覧会の見どころとともに紹介したい。

「筋金入りの遊牧民型」の原点は、少女時代にあった

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『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』展示風景。子どもの頃のお絵かきや「かていしんぶん」、6歳の絵日記「スケートの思い出」などが展示されている。

1967年に東京で生まれたヤマザキマリは、5歳のとき、ヴィオラ奏者の母・量子に連れられ、妹とともに北海道へ移り住んだ。演奏家として多忙だった母は、子どもたちによく本を読ませ、『宝島』などの冒険物語が、自ら「筋金入りの遊牧民型」と称する気質を育てたという。14歳で初めてヨーロッパをひとりで旅し、その経験が17歳でのイタリア留学へとつながる。そして油絵と美術史を学びながら約10年を過ごした。

2年前に母を亡くしたヤマザキは、思いがけない発見をしたという。ちらしの裏に描いた幼い頃のお絵描きを、母が段ボールいっぱいに取っておいてくれたのだ。本展では、その絵を当時の絵日記や「かていしんぶん」とともに初めて公開している。絵と文章が並ぶ紙面には、のちに絵と物語が一体化していく創作の片鱗がうかがえる。本人も「自分のポケットのなかを見せているような展示。これ以上のものは自宅にもない」と語る。

困窮の20代から『テルマエ・ロマエ』誕生まで

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『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』展示風景。中央に見えるのが、「自作のトップス・パンツ・スカート」(1990年頃)

留学時代に描いたハドリアヌスのドローイングなど、若き日の珍しい作品も並ぶなか、ふと目を引くのが、「JAZZ」や楽器などがプリントされた服を着たマネキンだ。これは20代で困窮していたヤマザキが、自分で仕立てたもの。絵で食べていくことの難しさを痛感し、子どもを育てるためにも漫画の道に挑んだ末、1995年に講談社新人漫画賞に入選する。その賞金で帰国すると、イタリア語講師やテレビ番組のリポーターなど、「十足のわらじ」の生活を送った。

イタリア人の比較文学研究者ベッピーノとの結婚を機に、シリアのダマスカスからポルトガルのリスボンへ移ったヤマザキは、2008年、古代ローマと風呂をテーマとした『テルマエ・ロマエ』の連載を始める。着想の源は、ダマスカスで訪ねた古代ローマ遺跡でのこと。遊牧民が暮らし、洗濯物を干す光景を目にして、タイムスリップしたような感覚に陥ったという。時空から解き放たれたこの世界観は、『オリンピア・キュクロス』や『プリニウス』にも受け継がれていく。

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時代も国も超えて、描かれる「人」や「歴史」

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『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』より、『Palmyre au musée 〜美術館のパルミラ〜』(2016年)展示風景

15世紀のルネサンス画家たちが登場する『リ・アルティジャーニ』や、少年がルーヴルでパルミラの美術品と出会う『Palmyre au musée 〜美術館のパルミラ〜』は、美術史を学んでいたヤマザキならではの実感を伴って描かれた作品だ。後者は全17ページの読み切り漫画。内戦の混乱のなかで破壊されたシリアの古代遺跡パルミラを舞台としたこの作品には、戻れぬ国への郷愁とともに、未来の平和への願いも込められている。

漫画を描く時も「文章を書く」ことから始めるヤマザキは、専門家との共著に加え、雑誌や企業の機関誌への連載も手がけ、文章とイラストで構成されたエッセイを数多く執筆している。『わたしの扉の向う側』(「ku:nel」連載)は、自らの体験などを書き下ろした一冊。また『ヤマザキマリの世界逍遥録』(「SKYWARD」連載)には、さまざまな国の思い出が綴られている。いずれの作品からも、幼い頃から各地を渡り歩いてきた作家の「国境のない」生き方が垣間見られる。

20年ぶりの油彩から、「Carpe Diem」の生き方まで

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『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』展示風景。山下達郎や立川志の輔の肖像が並んでいる。一番左が「タモリの肖像」(2026年)

漫画に軸足を移してからは絵筆から遠ざかっていたヤマザキだが、ミュージシャンの山下達郎との交流をきっかけに、20年ぶりに油絵の肖像画へ向き合うようになる。その最新の一枚が『タモリの肖像』。トレードマークのサングラス姿を克明に描き込み、いまにも話しかけてきそうな存在感を見せているが、本人は「これまでの肖像画で一番描くのが難しい」と語り、実はまだ完成に至っていないという。

自著のタイトルにも用いられている「Carpe Diem(カルペ・ディエム)」とは、「一日を摘み取れ」、すなわち「一日一日を目いっぱい楽しめ」を意味するラテン語の格言だ。多岐にわたる創作の根底にある、「挫折を経験しても、表現という生業は投げ出すことなく年齢を重ねてきた」という歩みは、まさにこの言葉と重なる。膨大な出品資料から伝わってくるのは、凄まじい熱量と、自らの道を切り開くバイタリティ。ヤマザキの果てしない旅路を、会場で追体験したい。

『ヤマザキマリの世界 今この瞬間を生きる―Carpe Diem―』

開催期間:開催中~~2027年2月7日(日)
開催場所:世田谷文学館
東京都世田谷区南烏山1-10-10
開館時間:10時〜18時 ※展覧会入場、ミュージアムショップは閉館の30分前まで ※11/6(金)のみ20時まで開館
休館日:月(ただし月曜が祝日の場合は開館し、翌平日休館)、年末年始(2026/12/28~27/1/4)
料金:一般¥1,500 他
www.setabun.or.jp

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。