モダンでスタイリッシュな佇まいとあたたかみが同居する「北欧デザイン」。いまや日本の暮らしにもすっかり馴染んだ存在だが、フィンランドやデンマークのデザイナーやブランドに比べると、意外にもスウェーデンのテキスタイルはあまり知られていない。世田谷美術館で開催中の『スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン』では、モチーフ、デザイナー、暮らしとの関わりという3つの視点から、その隠れた魅力をひもといている。
家庭の手仕事から花開いた、スウェーデンの織物文化
スウェーデンの織物文化は、ヴァイキング時代に生まれた手織りの技術にまで遡る。各地の風土と結びつきながら家庭内の手仕事として受け継がれ、18世紀以降は産業としての織物業が栄える。やがて産業革命を経てプリント・テキスタイルのデザインが花開くと、20世紀前半には起業家精神に富んだデザイナーらが台頭。建築や陶芸といった他分野の作り手たちと協働しながら、グラフィカルで魅力あふれる作品を次々と生み出していった。
エルサ・グルベリ(1886〜1984年)は、デザインと生産技術の両面から、同国テキスタイルの近代化の礎を築いた人物。1935年にオーストリア出身のプリント職人を招くと、前例のなかったスクリーン・プリントによる工房を設立し、表現の幅を広げていった。また陶芸家として活躍していたリスベット(1909〜1961年)とゴッケン・ヨブス(1914〜1995年)の姉妹は、生まれ故郷のダーラナ地方の自然を描いたテキスタイルを手がけ、人気を集めた。
8つのテーマでたどる、テキスタイルの物語
「草花」「動物」「サマーバカンス」など、8つのテーマからスウェーデンのテキスタイルを紹介しているのも本展の特徴だ。このうち草花をあしらった植物文様は、最も古い装飾のひとつ。1930年以降は緻密な花模様よりも、装飾性を排したシンプルな表現が主流となっていく。「サマーバカンス」とは、冬の長い同国で誰もが心待ちにする夏休みのイメージをモチーフにしたもの。のどかな風景をカラフルに表しながらも、祝祭的な雰囲気が感じられるのも魅力に映る。
テーマのひとつである「日本」にも目を向けたい。シンプルな形態を好み、実用性を求め、自然素材を多用したデザインは、北欧と日本に通じるところがある。日本の民藝運動と、そこで提唱される「用の美」の思想は、スウェーデンのデザイナーにも影響を与えた。一方で1954年から巡回した「デザイン・イン・スカンジナビア」展や、ミラノ・サローネでの北欧出身のデザイナーの活躍により北欧ブームが生まれると、その熱は日本にも波及していった。
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『ニッポン』という名のテキスタイルと、イケアを彩ったデザイナーたち
チキ・マットソン(1947年〜)の『ニッポン(日本)』は、ストックホルムの自宅アパートで使っていた和紙のランプのフォルムからインスピレーションを受けてデザインしたもの。揺らぎのある曲線が連なり、複数のランプを象るようなユニークな意匠が特徴で、当時から北欧と日本を融合したデザインとして話題を呼んだ。モノトーンを基調とした大胆な線描を代名詞とするマットソンは、スウェーデン国内だけでなく、フランスやアメリカといった海外市場にも活動を広げ、国際的に活躍した。
日本でもファンの多い家具・インテリア雑貨店のイケアに向けて制作されたテキスタイルも目立っている。大胆なストライプや幾何学模様のデザインを特徴とするイーネス・スヴェンソン(1932〜2005年)は、1971年にイケアで発売された『ストリクス』が大ヒットを記録。またスヴェン・フリステット(1940〜2025年)は、イケア向けのテキスタイルを数多く発表し、なかでも『アルフィ』(※)は豊富なカラーヴァリエーションで展開され、今でも高い人気を誇っている。※本展への出品はありません。
イェータ・トレーゴードが遺した、ファッションデザインの功績
ファッションといった暮らしのなかに生きるテキスタイルの展示も、会場を華やかに彩っている。このうちイェータ・トレーゴード(1904〜1984年)は、ファッションデザインの分野で大きな功績を残した人物として知られ、自ら創立者に名を連ねたアンダース・ベックマン・スクールでは若手デザイナーを導くなど後進の育成にも力を注いだ。勉強熱心だった彼女はパリのファッションショーに幾度も足を運び、なかでもクリストバル・バレンシアガから影響を受けたという。
展示ではスウェーデン在住のコレクター、サラ・アクステイリウスが10代の頃から30年以上にわたり収集してきたものを中心に、テキスタイル産業に代々携わってきたファミリーによるコレクションなど約200点を紹介。デザイナーの名や時代背景を知らずしても心配することはない。時に躍動感のあるテキスタイルを目にしていると、自然と笑みがこぼれるような多幸感すら覚えてくる。色や柄がもたらすその明るさに、気づけば心まで晴れやかになっているはずだ。
『スウェーデン・テキスタイル 暮らしと自然に息づく北欧デザイン』
開催期間:開催中〜2026年11月15日(日)
開催場所:世田谷美術館
東京都世田谷区砧公園1-2
開館時間:10時~18時※入場は17時半まで
休館日:月(10/12は開館)、10/13
観覧料:一般¥1,400 他
www.setagayaartmuseum.or.jp




