【西川美和監督インタビュー】戦争に興味がない人へ、どう届ける? 最新作『わたしの知らない子どもたち』で挑んだこと

  • 文:門間雄介
  • 写真:澤田健太
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西川美和監督の最新作『わたしの知らない子どもたち』。前作『すばらしき世界』の原案を通じて、裏社会に取り込まれた戦災孤児の存在を知り、本作の企画は動き出した。戦後を懸命に生き延びた戦災孤児たちの存在に光を当てた西川監督にとっての“大きなモチベーション”とは――。

人はなぜ、映画に心を動かされるのか——。「映画」が我々の心をゆさぶり、震わせるのは、そこに宿る熱量、つまりは“想いの強さ”なのかもしれない。たくさんの人の想いが重なって紡がれる映画というメディア。そこにどんな“チカラ”が宿っているのか、一緒に見ていこう。

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西川 美和(にしかわ・みわ)●1974年、広島県生まれ。2006年に『ゆれる』で第59回カンヌ国際映画祭監督週間に出品。21年『すばらしき世界』でシカゴ国際映画祭外国語映画部門観客賞や第76回毎日映画コンクール日本映画優秀賞受賞。©2026 K2 Pictures

作品の具体的な狙いを、“演出”で全員と共有する

監督の仕事の中でも、重要なものが演出である。その内容は多岐にわたるが、多くの人がイメージする演出とは、撮影現場で各所に指示を出すこと、特に俳優に演技をつけることだろう。「演技をつけるという意味では、実は大人の俳優たちにはほとんどその必要がないんです」と監督・西川美和は話す。

「キャリアのある俳優たちは素地があるので、各々のポテンシャルに任せておけばいい。ただ今回は、演技経験の少ない子どもたちが大半だし、役柄のバックグラウンドが現代とまったく異なるので、何度もリハーサルを重ねました」

『わたしの知らない子どもたち』は、初めて本格的に戦後を描き、戦災孤児の難役を子どもたちが演じる点で、西川には演出力が問われる作品となった。彼女が本作で大事にしたのは、子どもたち一人ひとりとていねいに向き合うこと。

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撮影前から、長い時間をかけた演出。メインで出演する子ども5人が決まると、撮影前に皆でキャンプに出かけるなど密なコミュニケーションを図り、互いの関係性を深めようとした西川。 子どもの労働時間が限られているため、撮影に入る前の準備に注力した今作。©2026 K2 Pictures

オーディションの時点から、演出が始まっていた

「オーディションの時点からみんなにお芝居をしてもらい、台詞覚えはいいか、身体を動かすのが得意か、それぞれのできることを把握していきました。だから今回は、オーディションから演出が始まっていた、と言っても過言ではないかもしれません」

西川が本作で注力したのは、現場の労働環境の健全化だ。子どもたちと事前になにもかも練習したのは、中学生以下の撮影時間は1日7時間以内(午後8時まで)という法定基準を遵守するためでもあったし、詳細な絵コンテを用意したのも、「スタッフが現場で滞りなく準備を進められるように」との意図から。これもまた、本作で果たした大きな仕事のひとつだ。

大人の俳優たちには、時代背景などの資料を渡し、事前にしっかりと話をしたが、「人によって千差万別なんです」と西川は語る。

「材料が欲しい人と要らない人、監督から解説されたい人、議論したい人、それらを必要としない人……さまざまな俳優がいるので、その人のタイプやお芝居のために必要なものを見極めるのが、クランクインまでの時間だと思います」

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子どもたちを疲弊させないよう、撮影内容を細かく示した絵コンテも監督自ら作成した。 

大人には演技をつける必要がない、とはいうものの、いざ撮影が始まれば、思い描くカットへたどり着くために、監督は俳優の演技を修正していかなければならない。その際に大切にしているのは、「なるべく具体的に話すこと」だ。

「なにも理由を言わず、『もう一回』と言って、俳優自身につかみ取らせていく監督もいるけど、私は堪え性がないんですよ。俳優がドツボにハマるのにも耐えられないし。だから、『こうしてみて』と思いつく方向に球を投げて、前のテイクからどう変わるかを見ていく。そして修正案が自分の中で出なくなったら、そこで演技はOKだと考えています」ただ、俳優の演技がいいだけでは、カットはOKにならない。
「光の具合やエキストラの動きも重要なので、それは私が俳優に指示するだけではどうにもなりません。結局、すべてのスタッフが演出に関わっているんですよね。だからなにを狙いたいか、スタッフ間で具体的に共有することが、演出には大事なんだと思います」

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前作を契機に生まれた、戦後の物語。西川は原作ありきではなく、脚本も自身で執筆することが多い。前作『すばらしき世界』の原案を通じて、裏社会に取り込まれた戦災孤児の存在を知り、本作の企画が動き出した。©2026 K2 Pictures

戦争に興味を持たない人に、どうすれば届くか

監督の仕事は、常にキャストやスタッフとの間で行われるが、西川にとって唯一ひとりきりの仕事が脚本の執筆だ。本作では、戦後を懸命に生き延びた戦災孤児たちの存在に光を当てたが――。

「戦争を知らない世代として、私が戦争を書くなんておこがましいという気持ちがあったんです。でも事実を調べていくなかで、こういう過去があったことを誰も語らなくていいのかと。たかが80年程度で、なかったことのように忘れ去られてはいけないと思ったんです。ただ、悲惨な描写だけでは、現代の観客に敬遠されてしまう。戦争について興味を持たない人たちに、どうすればこの物語を届けられるか、それが脚本を書く上での大きなモチベーションでした」その思いは彼女が考える、監督の仕事の価値とも結びついている。

「監督の仕事は誰かに頼まれてやっているものではありません。なんの役に立っているかもわからない。だからこそ、観てよかったと思ってもらえるものを提供しなければ、価値のない仕事だと考えています」

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脚本のロゴは、ビジュアルを手掛けたデザイナー吉良進太郎が作成。メインカラーの赤は西川の中で初期から固まっていた。
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戦争により家も家族も失った12歳の琴子は、荒廃した戦後の東京で生き延びるため、髪を切り、名前を変え、少女という性を隠して少年として生きる道を選ぶ。前作『すばらしき世界』の制作過程で、大勢の戦災孤児たちの存在を知った西川美和監督が、過酷な環境を生き抜いた名もなき子どもたちの姿を物語に。心を激しくゆさぶる作品が誕生した。

『わたしの知らない⼦どもたち』2026年10⽉16日公開 監督・脚本/⻄川美和 出演/小八重葵美、二階堂ふみ、櫻井海音、竹野内 豊ほか 2時間30分 ©2026 K2 Pictures

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