2026年7月某日、スコットランドを代表する老舗ウイスキーブランド「ザ・マッカラン」のマスターウイスキーメーカー、カースティーン・キャンベルが来日を果たした。200年以上にわたる歴史を受け継ぎながら、いまザ・マッカランがどのようなウイスキーづくりを続け、次の時代へ挑もうとしているのか──。3度目の日本訪問となるキャンベルに、その哲学を聞いた。
マスターウイスキーメーカーの仕事は、すでにあるウイスキーの品質と一貫性を守ること、そして新しいザ・マッカランを生み出すこと。その両面において深く関わることだという。キャンベルが率いるチームは、熟成中の樽からサンプルを取り、色や香り、味わいを確かめながら、それぞれの原酒の状態を常に見守っている。
ザ・マッカランの大きな特徴のひとつが、ウイスキーの色にカラメルを使用しない「ナチュラルカラー」だ。グラスに注がれた豊かな色も、香りや味わいも、熟成に使われる樽から自然にもたらされる。その品質を保つためには、蒸留所全体で膨大な数にのぼる樽を継続的に確認し、一つひとつの個性をきちんと把握する必要があるという。
「ウイスキーづくりは、科学とアートのバランスです」。食品科学を学び、長年ウイスキーづくりに携わってきたキャンベルはそう話す。製造や品質管理には科学的な知識が欠かせない。一方で、複雑に重なる香りや味わいを判断するためには、人間の感覚や経験も必要になる。数値だけでは捉えきれない変化や個性を見極めることも、ウイスキーメーカーの重要な仕事だ。
その姿勢は、生産現場にも表れている。ザ・マッカランは2018年、最新設備を備えた新蒸留所を稼働させ、生産体制を大きく刷新した。品質管理や製造工程には最先端の技術を積極的に取り入れながらも、蒸留器の形状やシェリー樽へのこだわりなど、味を決定づける本質は変えていない。伝統を守るために進化を続ける──その考え方は、キャンベルが語る「科学とアートのバランス」という言葉にも重なっている。
そうした挑戦は、新しい味わいにもつながっている。たとえば、日本では今年6月に発売されたばかりの「ハーモニーコレクション インスパイアード バイ フェニックス ハニー オーキッド ティー」では、茶葉を加えることなく、ウーロン茶を思わせる香りや、フルーティーでエレガントな味わいを表現した。数多くの樽から原酒を選び、組み合わせを重ねることで、まだ誰も味わったことのない一杯を生み出していくのだ。
一方、長い年月を経た貴重な原酒については、すぐに使ってしまわずに、さらに先の世代へ残すという判断もある。過去のウイスキーメーカーが残した原酒を受け継いで、自分たちもまた、次の世代へ原酒を託していく。キャンベルは、そうした自らの役割をザ・マッカランの「守護者」と表現した。
キャンベルによれば、世界各地の愛好家から、初めてザ・マッカランを飲んだ時の思い出を聞くことがあるという。どこで、誰と、どのザ・マッカランを飲んだのか。人々がその記憶を大切にし、言葉にして伝えてくれることが、ブランドにとってなによりの誇りなのだという。
長い時間をかけて育てられたウイスキーが、誰かにとって忘れられない一杯になる。その記憶を積み重ねながら、ザ・マッカランは次の200年へ歩みを進めている。
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