【漫画家・南賀なん】話題の『999号室』、“描きたいもの”を貫き通してたどり着いた唯一無二の世界観

  • 写真:竹之内祐幸
  • 文:力石恒元(S/T/D/Y)
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漫画家 南賀なん●1999年生まれ、兵庫県出身。大阪芸術大学卒業。2021年に『GIANT TORTOISE KILLING』で第88回小学館新人コミック大賞・青年部門で大賞受賞。複数の読切作品を経て、25年11月に『999号室』を「月刊!スピリッツ」にて連載開始。

無限にある部屋と、そこに棲む異形の住人に、日々手紙を届ける逓信所飛脚業代員(配達員)の主人公、1871号。受取人への配達と交流を通して、彼のいる世界や過去が明かされていく。SFとファンタジーが融合した謎の多い設定と退廃的な世界観を、圧倒的な画力で描く漫画『99 9号室』は連載開始以来、世の耳目を集め続ける。本作を手掛ける南賀なんは、いま最も話題の漫画家のひとりだ。幼少期から絵が好きだった南賀が漫画家を志したきっかけは、高校生活の終わりに読んだ鬼才・浅野いにおの漫画『おやすみプンプン』だった。

「将来は絵に関わる仕事に就こうと、芸術系の大学の油絵コースに願書を出したところだったんです。兄の本棚にあった『プンプン』が無性に気になって読んでみたら、大きな衝撃を受けて最後まで一気読みしました。自分の感性に見事にブッ刺さってしまい、『こんな赤裸々なことを描いていいなら、自分も漫画でなにかを描きたい』と思ったんです」

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『999号室』第1話より、1871号が手紙を紛失してしまい、受取人の怒りが爆発するシーン。異形の住人の造形と崩れる建物がダイナミックな構図で描かれている。特異なキャラクターたちの背景にある物語も魅力。©南賀なん/小学館

大学では才能と向上心ある仲間に囲まれた。だが油絵コースにもかかわらず、課題はペン画しか提出しなかった。「教授に『漫画に役立つことしかしたくない』と生意気なことを言って、4年間、絵筆ではなく0.38㎜のボールペンでキャンパスに線を引いていました。大学の課題に限らず、普段から密度の高い背景をミチッと描く作品をつくってはSNSに投稿していました」

そんな活動をきっかけに、いくつかの漫画編集者に声を掛けられた。アドバイスを受けながら作品制作に取り組み、さまざまな出版社の漫画誌で短編を発表する。だがどこかで、“求められるもの”と“描きたいもの”の乖離が存在している感覚があった。

「大学3年生である漫画誌の月例賞の佳作をいただいて、商業誌に漫画家デビューをしました。だけど、やりたい企画を持っていってもなかなか通らない。ことごとく『浅野いにお先生を追いかけるのはやめなさい』と言われ続けました。いま思えば、浅野先生の作品を表面的にしか捉えていない、自分勝手な漫画だったかもしれません。でも同時に、描きたいことを描きたいとも強く思いました」

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作中に登場する手紙の“賞味期限”を計るために使う「上皿さおはかり」。年代もので、構造を知るためにフリマサイトで購入した。

そこに転換点がやってくる。「月刊!スピリッツ」の編集者との出会いだ。好みの漫画は違えど、性格や価値観は自分と近い。これまで否定されてきたことでも受け止めてくれると直感した。「その時々で関心のある事柄を出力したい気持ちが強くて、それを連載にしたいと思い始めました。そのために、主人公に悩みがあるのではなく、毎回出てくる受取人のゲストキャラに悩みがあり、主人公が解決するストーリーにすることで、僕の頭にあることを投影し続けられると考えました」

それを呼び水に『999号室』の原型となるアイデアや設定が絶え間なく湧き続ける。ゲストキャラと主人公を結ぶ“配達”という仕事、悩みを具現化したキャラクターデザインなど、描きたいことを描くための土台を固めていく。

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デスク横に掛けたホワイトボード。「編集さんが忙しい時には連絡を控える。モラハラ、パワハラは絶対ダメ」と自戒する。

「舞台となる集合住宅の部屋が無限に広がっていれば、ゲストキャラも無限に登場させることができる。『手紙の配達』を題材にしたのも、昨今つながりすぎることでいさかいを生み続けるSNSと、そんな社会の醜さに違和感があったから。漫画という説教くさくなく価値観を伝えられる媒体で、原始的なコミュニケーションのよさを伝えたかった。当初は『連載を続けるのが難しそう』といった感想もいただきましたが、理詰めで作品の世界観をつくっています」

最後に、ゆずれないこだわりを聞くと「精緻な背景で魅せること」という。近年漫画は、スマホで読むことを意識して絵やコマ割りは大きく、細部は簡略化される傾向があるが、その流れに全力で抗いたいと語る。南賀の才能と物語には、限界の見えない幅と奥行きを感じる。今後の展開に期待が高まるばかりだ。

PICK UP

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『999号室』 国に仕える配達員の1871号が、巨大集合住宅で異形の住人たちへ手紙を届ける。不可思議な日常の積み重ねを通して、この世界に隠された真実が少しずつ浮かび上がる。 ©南賀なん/小学館

PERSONAL QUESTIONS

いま会ってみたい人は?

ゲームデザイナーの小島秀夫監督です。「DEATH STRANDING」など斬新なゲームをつくられていて、その革新的な発想のもとを、能勢電鉄沿いに住んでいた後輩として聞きたい(笑)

はまっていることは

高校時代にバンドを組んでギター&ボーカルをやっていたのもあってギターです。作業中に曲を聴いていると歌いたくなって弾き語りします。最近好きなバンドはハク。さんです。

よく見るYouTubeチャンネルは?

昔から見ているのが、ゲーム実況者の牛沢さん。ストーリー重視のゲームをプレイされることが多く、作業の合間のBGMとして聴きながら、創作のモチベーションにしています。

読者に伝えたいことは?

予想以上の反響に驚いています。新人ですし、第1巻には4話しか載っていないので、みなさん、判断が早いです(笑)。たくさんの応援に応えられるよう、頑張って描きます!