スイス
スイス中部、山岳リゾート・エンゲルベルクを望むティトリス山に、バーゼル(スイス)を拠点とする建築設計事務所「Herzog & de Meuron」が手がけた「ティトリス・タワー(Titlis Tower)」が完成した。
このタワーは、標高3000mを超える山頂に立つ高さ56mのアンテナ塔を起点に、展望台やレストラン、ショップを備えた新たな観光施設へと再構成したものだ。2026年5月29日に公式オープンした。
1980年代半ばに通信インフラの一部として建設された既存塔を取り壊すのではなく、その鉄骨構造や地下トンネルを残し、新しい用途を組み込んだ点が特徴である。背景には、年間約110万人が訪れるティトリス山の観光インフラを、現代の来訪者に合わせて更新するという大きな構想がある。
既存の塔を「建築」として読み替える
ティトリス山では1967年のロープウェイ開通以来、山頂駅やレストラン、ショップ、氷河洞窟、吊り橋などが段階的に増設されてきた。その結果、施設は複雑化し、収容能力や案内、来訪者の動線に課題を抱えるようになった。
Herzog & de Meuronが2017年に依頼されたのは、山頂全体のマスタープランを更新するとともに、既存のアンテナ塔を来訪者の体験へ組み込むことだった。中心となったのが、既存構造を資源に配慮しながら活用する考え方である。
塔だけでなく、山頂駅とつながる地下トンネルやロープウェイ駅の一部も残し、新しいシステムに統合した。
「山小屋というよりジェームズ・ボンド」― 鉄骨にガラスの空間を組み込む
既存の鉄骨構造を生かし、そこに2つのガラス張りの空間と4本の垂直な動線塔を組み込んだ点が印象的だ。
2つのガラス張りの部分は水平に大きく張り出し、十字形に交差するように配置されている。外周の鉄骨構造が荷重を支えるため、内部には柱を設けず、開放的な空間を確保した。
下部にはショップ、上部には140席のレストランを設け、塔の最上部には一般公開の展望台を配置。360度に広がるアルプスのパノラマを楽しめる。
素材には亜鉛メッキ鋼、ステンレススチール、コンクリート、ガラスを採用。既存の構造やそこに残る痕跡はあえて隠さず、新たな建築要素と組み合わせることで、もともとの鉄骨の存在感を際立たせている。一方、レストランの内部は木で覆い、外部の無機質な素材とは対照的に、温かく守られた雰囲気を作り出した。
山岳インフラを「残して変える」
3000mを超える高地では、強風や氷点下の気温に耐える構造だけでなく、資材や人員を運ぶ建設ロジスティクスにも大きな制約が生じる。そうした条件のもとで、既存の塔を骨格として新しい機能を加えた「ティトリス・タワー」は、山岳建築における再利用の可能性を示す事例となった。
これは単独の塔の改修ではなく、既存の山頂駅なども含めて観光インフラを更新する計画の第一段階である。今後は山頂駅の新施設も整備され、2029年の完成が予定されている。
1960年代から拡張を重ねてきたティトリスの観光インフラは、既存施設を生かしながら新たな段階へと移行しつつある。








