イタリアからアドリア海を挟んで対岸に位置するクロアチアに、延床面積1万平方メートルの複合文化施設「EVEミュージックホール」が誕生する。まるで布でできているかのような柔らかな曲線のファサードが、訪れる観客を温かく内部へと誘う。
平原に現れる石灰岩の舞台
クロアチア東部に広がる、スラヴォニア地方。どこまでも農地が続く緑の地平線に、純白の巨大な“幕”が浮かび上がる。
建物上部から垂れ下がり、地面へ近づくにつれ大きくカーブを描くその幕は、実は石灰岩製の壁面だ。さながら開演を待つ舞台の幕がめくれ上がり、観客を中へと誘っているかのようでもある。
建築デザイン専門ウェブ誌のユアデザインによると、この仕掛けは意外性だけを意図した装飾ではなく、観客を迎える演出の一環だという。エントランスにたどり着く前から、石灰岩の切れ目越しに、ガラスのファサードを通じて内部空間が覗く。ホール内部で何が行われるのかが、建物に近づくにつれ、徐々に伝わってくる趣向だ。
イタリア建築・デザインWebマガジンのデザインブームによると、完成すれば設計事務所のBIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)が手がける初の音楽ホールとして初の完成例となり、クロアチアの建築としても初の事例となる見込みだ。メインとなるコンサートホールのほか、会議施設や展示スペース、カフェ、屋上イベントエリアを備え、2027年初頭の開業を見込む。
穀倉地帯として知られる一方、大規模な文化施設を持たなかったスラヴォニアの平原。そこに、BIG創設者のビャルケ・インゲルス氏は、「スラヴォニアの無限の地平線における音楽の噴出」と呼ぶこの施設を、ランドマークとして構想した。
建物の外観で観客の期待感を高め、果てしない平原を巨大な劇場に見立てる壮大な構想だ。
2つの棟に分けた合理性
BIGの設計士たちがEVEのプランを練るに当たり、大小2つのホールが互いに音響の悪影響を受ける懸念があった。
そこで彼らは、石灰岩の幕を纏った大小2つの棟を、外観上も独立したボリュームとして並べ、内部でも音響的に完全に分離させる方針を採用した。
建築専門ウェブメディアのアーキ・デイリーによると、大きな方の棟にはメインとなるコンサートホールを収め、小さな棟にはコングレスホール(会議ホール)をはじめ付帯施設が入る設計だ。
音響設計は多用途を意図して最適化されており、メインのコンサートホールは着席形式のコンサートやオーケストラ公演から、立見形式の大規模なライブまで多様なフォーマットに対応できる設計だという。音響が干渉しないことから、2つのホールを同時に別用途で運営することも可能だ。
2つの棟に挟まれた歩行者専用の通路を抜けると、中央のホワイエ(ロビー空間)が広がる。ホワイエの天井からは、木の温もりを生かした木造の天井が曲線を描き、天幕のように垂れ下がる。無限に反復するリズムと奥行きを生み出している。
外観についてはBIGのジョアン・アルブケルケ氏が、「正面しか持たない」設計だと説明している。優美な“幕”に包まれた直方体は、どの方角から眺めても正面と言える立派な印象を帯び、すべての壁面が等しく自然の風景と調和するのだという。
真の課題は建築以外にある
もっとも、設計の完成度がいかに高くても、それだけで施設が成功するとは限らない。
ユアデザインは、EVEにはまだ答えの出ていない、避けて通れない問いがあると指摘する。既存の都市インフラから遠く離れている。ヨーロッパならばこの規模の施設に見合った交通インフラがあるが、クロアチア東部のスラヴォニアの農村地帯ではたして観客を引き寄せ続けられるのか、という疑問だ。
EVEは屋内ホールに加え、平原に最大2万5000人を収容する屋外イベント空間を設ける計画だ。人口の少ない遠隔地にこれほどの規模を想定すること自体、大規模な文化拠点を打ち立てること自体が目的化してしまっていることの表れとも取れる。
EVEがスラヴォニアに根づく文化的ランドマークとなるか、それとも設計だけは見事だが、観客を待ち続けるだけの箱になってしまうのか。その命運は、交通アクセスの整備と、魅力的な公演・催事プログラムを用意できるかにかかっている。
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