現在、FIFAワールドカップ2026(カナダ、メキシコ、アメリカ共催)が開催中だ。連日の熱戦に、寝不足の日々を送るサッカーファンも少なくないだろう。
ワールドカップの話題で世界中が盛り上がるなか、2034年大会のメイン会場となるサウジアラビアの「キング・ファハド・スポーツシティ・スタジアム」の改修プロジェクトの最新完成イメージが公開された。これは1987年に開場した同スタジアムを建て替えるのではなく、既存の建築を生かしながら現代の国際大会に対応させる大規模改修である。
公開された画像(レンダリング)には、象徴的なシルエットを継承しつつ、新たな屋根や外装を加えた様子が描かれている。
建物の個性を残しながら現代へアップデート
1987年の竣工以来、スタジアムはテント状の膜屋根で覆われている。マスト(支柱)からケーブルを張る構造で、長年スタジアムの象徴になっている。今回の改修では、テントが美しく連なるシルエットはそのままに、約3万6000㎡に及ぶケーブルネット構造の新しい天蓋が設置される。
Image courtesy of Populous
軽量なケーブルネットの上に膜材を張ることで、スタジアム全体を覆う大屋根を実現する。これに加え、強い日差しから観客を守るだけでなく、冷房効率の向上にも貢献する設計だ。
外周にはイスラム建築に着想を得た幾何学模様のファサードを採用する。新旧のデザインを重ね合わせることで、スタジアムの景観的なアイデンティティを継承する考えだ。
観客席も刷新される。既存構造を大きく変えず、フィールドレベルを掘り下げて新たな下層スタンドを設けることで収容人数の拡大を図る。FIFAワールドカップの開催基準に対応するとともに、メディア施設やホスピタリティエリアなども国際大会仕様へ更新される予定である。
「壊さず生かす」ことを選んだサステナブルな改修
このプロジェクトで設計チームが繰り返し強調しているのは、建て替えではなく「レトロフィット(retrofit /大規模改修)」という考え方だ。
既存建築を保存するだけではない。撤去する屋根のケーブルや支柱は駐車場のソーラーキャノピーへ転用され、太陽光発電設備として新たな役割を担う計画である。発電した電力はEV充電設備やスタジアムの運営にも活用されるという。さらに、特徴的な六角形パネルをはじめ、座席や設備機器など既存施設の部材も可能な限り再利用する方針を掲げる。
成熟した樹木も400本以上を移植し、新たに整備される公園へ生かす計画だ。近年、世界各地で大型スポーツ施設の建設に伴う環境負荷が課題となるなか、既存資産を最大限活用する姿勢は、この計画を特徴づける要素のひとつとなっている。
この改修を手がける「Populous」は、スポーツ・エンターテインメント施設を専門とする国際的な建築デザインファームだ。ロンドンのトッテナム・ホットスパー・スタジアムやラスベガスの球体型アリーナ「Sphere」など、世界各地のランドマークとなる施設を数多く手がけてきた。
近年は新築だけでなく、既存建築の価値を生かしながら機能を更新するリノベーションやレトロフィットにも力を入れており、キング・ファハド・スポーツシティ・スタジアムの計画にも、その設計思想が色濃く反映されている。
スタジアムを中心に広がるスポーツパークへ
改修の対象はスタジアム単体にとどまらない。周辺にはスポーツセンターやサッカーアカデミー、ファンゾーン、円形劇場、5人制サッカーコートなどを備えた複合スポーツパークも整備される。競技開催時だけでなく、市民が日常的に利用できる施設としての役割も視野に入れている。
ワールドカップに向けて新設スタジアムの計画も相次ぐサウジアラビアだが、そのなかでキング・ファハド・スポーツシティ・スタジアムは、歴史ある建築を未来へつなぐ選択肢を示した。工事はすでに進められており、2026年の完成を予定。その後は2027年のAFCアジアカップを経て、2034年FIFAワールドカップのメイン会場として使用される計画だ。
象徴的な姿を残しながら性能を更新し、資源の再利用や環境負荷の低減にも取り組む今回の改修計画は、大規模スポーツ施設のあり方を考えるうえでも注目される事例となりそうだ。