今月のおすすめ映画①『急に具合が悪くなる』
ふたりの女性の“対話”から、世界をつくり直す可能性を見いだす
マリー=ルー(ヴィルジニー・エフィラ)と真理(岡本多緒)。同じ響きの名を持つふたりの女性が、パリの片隅で偶然に出会い、言葉を交わし続ける。その“対話”が世界をつくり直す可能性こそが『急に具合が悪くなる』に置かれた核だ。原作である同名の往復書簡が持っていた魂と魂が触れ合う瞬間の強度を、監督の濱口竜介は独自の視座から映画に移植する。
アカデミー賞国際長編映画賞受賞の『ドライブ・マイ・カー』、『偶然と想像』、初期作『不気味なものの肌に触れる』など、濱口映画の蓄積が折り重なった先の風景がここにある。
物語は、介護施設「自由の庭」で理想のケアを模索するマリー=ルーと、ステージⅣのがんを抱えながら演劇をつくる真理の出会いから動き出す。ふたりが本当の意味で結びつくのは“決定的な一日”の夜。パリの街を歩き、セーヌ川沿いを彷徨いながら、やがて彼女たちは資本主義という巨大なシステムの末期症状について語り合う。都市と地方、自然と身体、民主主義と階層——世界の現状を明晰に整理しつつ、しかしその“構造”の外に出ることは難しい。だからこそ真理は言う。「悪あがきしようよ、一緒に」。その言葉は、我々観客に向けられた呼びかけでもあるだろう。
濱口は抜け出せないシステムの暴力性に対し、対話という行為を抵抗のかたちとして提示する。コミュニケーションはしばしば途切れ、逸れ、噛み合わない。だがそのゆらぎのなかでしか、人と人との間に新しい関係は立ち上がらないはずだ。第79回カンヌ国際映画祭でヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が揃って最優秀女優賞を受賞。さらに長塚京三、黒崎煌代らが醸し出す生のリズムが世界の奥行きを押し広げ、未来への可能性をそっと照らしてくれる。

『急に具合が悪くなる』
監督/濱口竜介
出演/ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒ほか
2026年 フランス・日本・ドイツ・ベルギー合作映画 3時間16分
TOHOシネマズ日比谷ほかにて上映中
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。
---fadeinPager---
今月のおすすめ映画②『ヌーヴェルヴァーグ』
美しいモノクロ映像で描く、50年代フランス映画界の熱狂
“新しい波”と呼ばれる革新的なフランスの映画運動。その中心にいた当時28歳のジャン=リュック・ゴダールが1959年に衝撃の長編デビュー作『勝手にしやがれ』を爆誕させる舞台裏を『6才のボクが、大人になるまで。』などのリチャード・リンクレイター監督が青春物語として再構築。モノクロ映像と精巧な美術で伝説誕生の瞬間を活写。ヌーヴェルヴァーグの拠点であった仏「カイエ・デュ・シネマ」誌で昨年、年間ベストテン第8位に選ばれた一本。
『ヌーヴェルヴァーグ』
監督/リチャード・リンクレイター
出演/ギヨーム・マルベック、ゾーイ・ドゥイッチほか
2025年 フランス映画 1時間46分
7/10より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります
---fadeinPager---
今月のおすすめ映画③『デッドマンズ・ワイヤー』
アメリカン・ニューシネマを彷彿、立てこもり事件を描くスリラー
『エレファント』『ミルク』などの名匠ガス・ヴァン・サント監督が描く実録犯罪スリラー。1977年、米インディアナポリスで起きた立てこもり事件を題材に、アメリカン・ニューシネマの味わいを豊かに醸し出す。同じく立てこもり事件を描いた往年の名作『狼たちの午後』に主演したアル・パチーノも脇で出演。主演のビル・スカルスガルドは社会の周縁に追い詰められた男の暴発を鋭く演じ、ソウル/ファンク中心の選曲が時代の鼓動を響かせる。
『デッドマンズ・ワイヤー』
監督/ガス・ヴァン・サント
出演/ビル・スカルスガルド、デイカー・モンゴメリーほか
2026年 アメリカ映画 1時間45分
7/17より新宿ピカデリーほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります



