【赤ずきんやシンデレラの装いに隠された意味】おとぎ話を“モード”から読み解く展覧会|千葉市美術館

  • 文&写真:はろるど
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『おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE』の展示風景 手前は『ローブ・ア・ラ・フランセーズ』 1775年頃 神戸ファッション美術館

シンデレラのドレス、赤ずきんの真っ赤なマント。おとぎ話の物語を形づくってきたのは、実は「装い」だった――?

千葉市美術館で開催中の『おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE』は、19世紀から20世紀のヨーロッパで花ひらいた挿絵本を中心に、装いをめぐる表現に着目しながら、おとぎ話の想像力が生み出してきた多彩なイメージをたどっている。

サロンで語られたおとぎ話が精緻な描写に

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モーリス・ブーテ=ド=モン ヴェル著・絵『ジャンヌ・ダルク』 1896年 青山学院大学図書館

17世紀フランスの宮廷サロンにおいて、おとぎ話は洗練された社交の場で育まれ、ひとつの流行として定着していく。やがてサロンでは、女性たちがおとぎ話を創作し、語り合う文化も生まれた。

冒頭では、シャルル・ペローがサロンの読者を意識して書き上げた童話集や、モーリス・ブーテ=ド=モンヴェルがジャンヌ・ダルクの生涯を44点の細やかな絵で描いた挿絵本などを展示。おとぎ話が声から文字へ、そして視覚イメージへと姿を変えていく過程が浮かびあがる。

現実と幻想のあいだを行き来する存在として描かれてきた妖精やこびとたち。19世紀のイギリスでは妖精への関心が広がり、自然のなかに潜む「目に見えない小さなもの」たちのイメージと結びついていく。

リチャード・ドイルの『妖精の国で』は、その緻密で華やかな描写が、後の妖精像の原型ともなった一冊。妖精画家としての評価を決定づけたアーサー・ラッカムの『ケンジントン庭園のピーターパン』などと並んで展示されている。

ヒロインたちを彩る、装いという記号たち

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ウォルター・クレインが描いた「赤ずきん」(『赤ずきんの絵本』より)   1898年 鶴見大学図書館

ウォルター・クレインの『赤ずきんの絵本』には、金髪に赤いケープという「赤ずきん」のイメージが、実にシンボリックに描き出されている。ラプンツェルの長く美しい髪も、おとぎ話のヒロインたちに共通する美しさの表れだ。

また「不思議の国のアリス」でおなじみのエプロン姿は、挿絵画家ジョン・テニエルの手によって形づくられた。

会場ではモデルとなったアリス・リデルの雰囲気を伝えるルイス・キャロル自身によるペン画も展示され、両者の表現の違いを見比べられる。

「シンデレラ」や「眠れる森の美女」は、装いが重要な役割を果たす。

灰にまみれた少女が美しいドレスをまとった瞬間、誰もが振り返る存在へと変わる。そのサクセスストーリーとして捉えられがちな物語では、ドレスやガラスの靴といったファッションが、自己回復を象徴するアイテムとして機能している。

「眠れる森の美女」では、糸を紡ぐための道具である紡錘が、王女を眠りへと誘う。ルネサンス風の装飾的な画面構成が目を引くウォルター・クレインによる挿絵本も見どころといえる。

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エドマンド・デュラックとカイ・ニールセンという挿絵の魔術師

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カイ・ニールセン「12人のおどるお姫さま」(『おしろいとクリノリン』より) 1913年 青山学院大学図書館

特にエドマンド・デュラックとカイ・ニールセンの二人の挿絵に、とびきりの魅力を感じずにはいられない。

フランス出身のデュラックは、ラファエル前派やビアズリーらの影響を受けて渡英し、20世紀のイギリスの挿絵文化の発展に大きく寄与した。その色彩の絶妙なニュアンスは夜や暗がりの場面に発揮され、シンデレラと名付け親の妖精を貴婦人の姿として描いた『シンデレラ』の挿絵からは、甘美で妖艶な雰囲気が伝わってくる。

『12人のおどるお姫さま』は、デンマーク出身のニールセンが、ロココ趣味とアール・デコの感覚を併せ持つ挿絵を手がけた一作。舞踏会へ向かう姫たちは、まるで夢のなかをたゆたうかのような幻想性をまとって描かれている。

ほかにも、ノルウェー民話をもとにした『太陽の東 月の西―北の国のむかし話』、舞台装置のような建築空間と幾何学的構成がユニークな『千匹皮』なども、繊細を極めた意匠と豊かな色彩の数々に、いつまでもその世界に迷い込んでいたくなる。

注目された「青い鳥」の衣装も

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「青い鳥」衣装(デザイン:レオン・バクスト/着用:スタニスラス・イジコフスキー)   1920年代 兵庫県立芸術文化センター  薄井憲二バレエ・コレクション

おとぎ話を表現してきたメディアのなかでも、モードと深く結びついているのがバレエだ。

20世紀初頭、ヨーロッパを席巻したバレエ・リュスの『シェラザード』では、レオン・バクストが手がけた衣裳が当時のファッションに大きな影響を与え、オリエンタリズムの再流行を促した。会場には、バレエ・リュスやボリショイ・バレエによる『眠り姫』や『シンデレラ』などにまつわる資料に加え、レオン・バクストによる「青い鳥」の衣裳も並び、その華やかな世界観をたっぷりと体感できる。

おとぎ話のイメージの広がりを楽しんだ後は、そのまま企画展『なぞとき!日本の物語絵』へ。ここでは日本の物語を主題とする絵画作品を5つのセクションから紹介。「日本のおとぎ話」では、「竹取物語」や「桃太郎」をはじめ、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)が各地に伝わる伝説などをもとに著した短編集などが展示されている。

巡回なし、千葉単独での開催となる『おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE』に、この夏はぜひ足を運んで、おとぎの国を旅してほしい。

『おとぎの国のモードをさがして/Fairy Tale MODE』

開催期間:開催中〜2026年8月30日(日)
開催場所:千葉市美術館
千葉市中央区中央3-10-8
開館時間:10時~18時(金・土曜日は20時まで)
 *入場受付は閉館の30分前まで
休室日:月(7/20をのぞく)、7/21
観覧料:一般¥1,500 他
www.ccma-net.jp

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。