【家具なのにアート】世界を変えた巨匠エットレ・ソットサスの大回顧展がアーティゾン美術館で開催

  • 文&写真:はろるど
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左からエットレ・ソットサス『キャビネットNo.71』、『キャビネットNo.74』 いずれも2006年デザイン/製作 © Erede Ettore Sottsass

20世紀イタリアを代表する建築家・デザイナーであるエットレ・ソットサス(1917〜2007年)の日本初の大規模回顧展が、東京・京橋のアーティゾン美術館で開かれている。

合理性や機能性を追い求めるのではなく、人間の本質的な感性を揺さぶり、遊び心をかき立てるデザインを手がけたソットサス。初期から晩年までの100点を超える作品を通して、その創作の軌跡を辿ってみたい。

捕虜を経て戦後、花開いた色彩の才能

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『エットレ・ソットサス ― 魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』の展示風景。手前は世界中で愛された『ヴァレンタイン』。

オーストリアに生まれたソットサスは、建築家の父の仕事の都合でイタリア・トリノに移り住み、1939年にトリノ工科大学で建築学の学位を取得した。大戦中は山岳部隊に動員され、ドイツ軍の捕虜となる経験もしている。

戦後はミラノを拠点にデザイナー・建築家としてのキャリアをスタートし、1950年代から60年代にかけてオリベッティ社やポルトロノーヴァ社と協働しながら、数々の優れたデザインを世に送り出していった。

ストライプ模様のサイドボード『モービル』は、ソットサスがポルトロノーヴァ社のためにデザインしたもの。その鮮烈な色彩美とポップな味わいから、早くも彼らしいデザインの個性がにじみ出ている。

一方、オリベッティ社から発売された『ヴァレンタイン』は、デザイン史に残る名作として今なお語り継がれるタイプライターだ。日本では「真っ赤なバケツ」として親しまれつつ、持ち運び可能でおしゃれなタイプライター自体が画期的とされ、大いに人気を集めた。

「人の心を救済する」ためのデザインを

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エットレ・ソットサスの『オダリスク』などが並ぶ展示風景。インテリアデザイナーの五十嵐久枝による空間設計も見どころの一つ。

1960年代、実験的なデザインに取り組んだソットサスは、陶器の輪を積み上げた柱のフォルムに着手し、『オダリスク』といったトーテム状の作品を生み出していく。

高さはいずれも2、3メートル。有機的でどこかかわいらしく、一見アート作品のようだが、彼自身は「いくつか並べて建てることで、神殿のような建築ができるのではないか」と述べている。人々の心を救済するための「道具」としてデザインしたと言われている。

「メタファー」と題された写真シリーズにも注目したい。1970年代、都会を離れたソットサスは、スペイン・カタルーニャ地方をはじめ、ギリシャ、アメリカなどを旅し、空想的な「建築」のドローイングを描く。

それらを木や石、ロープにて再現し、写真に撮影したのがこのシリーズだ。写真には「暗闇に入るためのドアのデザイン」や「…それとも玉座が欲しいか?」といった、時に詩的なテキストが添えられ、イメージとともに彼の思索の隠喩として示されている。

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エットレ・ソットサス『メタファー』より 1972~79年 © Erede Ettore Sottsass

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国際的なデザイナー集団メンフィスを発足

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左から、エットレ・ソットサス『カールトン』、 『カサブランカ』 いずれも1981年デザイン/製作

自らが発起人となって結成した国際的なデザイナー集団、メンフィスに関する展示も充実している。

このうち『カールトン』は、メンフィスを象徴する最もアイコニックな作品として知られたデザイン。カラフルな樹脂ラミネート合板を組み合わせた形は、四角い頭を持つロボット、あるいはヒンドゥーの神様をも連想させ、ユニーク極まりない。

会場では同じくメンフィスの代表作のひとつである『カサブランカ』と並び、刻々と変化する照明の演出とともに楽しむことができる。

倉俣史朗はソットサスに誘われ、メンフィスの活動に加わったデザイナーのひとり。テーブル『トウキョウ』は、カラフルな透明ガラスの破片を練り込んだ人工大理石で作られ、1983年のメンフィス展に出品された。

新作コレクションを発表するたびに大きな反響を呼んだメンフィスだが、次第に強まる商業主義的な圧力にソットサスは耐えられなくなり、1985年に脱退。中心的な存在を失ったグループも、程なく1988年に解散する。

型破りなフォルムに宿る、デザインの魔法とは

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エットレ・ソットサスの「花瓶」シリーズが並ぶ展示風景。© Erede Ettore Sottsass

メンフィス以降のソットサスの家具は、よりずんぐりと大きく、どっしりとした重量感をまとっていく。

キャビネットの構造はますます大胆になり、厳かな雰囲気とユーモラスな気配が同時に感じられ、他にはないオリジナルな世界を築き上げている。

亡くなる前年にデザインされた『キャビネットNo.71』は、透明アクリルの脚にキャビネットが配され、動物のツノのような装飾が載っている。にわかに使用シーンが思い浮かばないほどに奇抜な姿に、思わず足が止まってしまう。

展示のラストは、18点のガラス器による花瓶のシリーズが飾っている。大小さまざまな色とりどりのガラスパーツが、アルミパイプやアルミワイヤー、ロープによって絶妙なバランスで組み上げられ、まるで未だかつて目にしたことのない生き物のようだ。

ガラスの美しさとともに、型破りなフォルムについつい見入ってしまう。ソットサスが生涯をかけて追い求めた「デザインの魔法」とは何か。その正体を、ぜひ会場で確かめてほしい。

『エットレ・ソットサス ― 魔法がはじまるとき、デザインは生まれる』

開催期間:開催中〜2026年10月4日(日)
開催場所:アーティゾン美術館
東京都中央区京橋1-7-2
開館時間:10時~18時(毎週金曜日は20時まで)
 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月(7/20、9/21は開館)、7/21、9/24
入館料:一般¥1,200(ウェブ予約チケット)、¥1,500(窓口販売チケット)、学生無料(要ウェブ予約)
 ※この料金で同時開催の『瀧口修造』展も鑑賞可能
www.artizon.museum/exhibition_sp/sottsass2026

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

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千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。