DENMARK デンマーク/コペンハーゲン

「木漏れ日」という言葉がある。木の枝葉の隙間から差し込む光を表す、日本語ならではの繊細な表現だ。この言葉に正確に対応する英語はない。だからこそ、その意味を伝えるとき、人は少しだけ立ち止まり、想像することになる。 隈研吾によるインスタレーション「Earth | Tree」は、そんな「木漏れ日」の感覚を、空間として立ち上げた作品だ。舞台は、デンマーク・コペンハーゲンにある現代アート施設、コペンハーゲン・コンテンポラリーだ。

光がつくる、やわらかな空間体験
空間に足を踏み入れると、視線は自然と上へ向かう。天井一面に広がるのは、無数の木材によって編み込まれた構造体だ。隙間からやわらかく光が落ち、刻々と変化する陰影を生み出す。照明デザインは、コペンハーゲンを拠点とするスタジオ、Anker & Coが手がけた。木々の梢を通り抜ける光――「木漏れ日」が生み出す繊細な陰影を、空間全体に再現している。
Photo: Jacopo La Forgia / Copenhagen Contemporary自然へのまなざしがつなぐ、ふたつの国の感覚
本作を主導したのは、隈研吾建築都市設計事務所のパートナー建築家であり、ヨーロッパの主要プロジェクトを率いる池口由紀だ。池口が大切にしたのは日本とデンマークが共有する「自然への敬意」という価値観だ。制作にあたっては、デンマークの木材メーカー Dinesen とレンガメーカー Petersen Tegl と協働した。
Photo: Jacopo La Forgia / Copenhagen Contemporary木とレンガという、建築における最も基本的な素材を用いながら、そこには本来廃棄されるはずだった要素も含まれている。Dinesenが持つ「どんな小さな木片も無駄にしない」という思想に共鳴し、役目を終えた素材に新たなかたちを与えることが、この空間の発想へとつながった。足元に広がるレンガにもまた、時代を超えて受け継がれてきた手仕事の記憶が宿る。軽やかな木と重なり合うことで、異なる性質をもつ素材が、ひとつの空間の中で静かに共存している。
誰もが“建築する”ことができる場所
さらに興味深いのは、このインスタレーションが単なる鑑賞体験にとどまらない点だ。会場には、来場者自身が素材に触れ、組み立てることのできるワークショップエリアが設けられている。砂で風景を形作ったり、隈研吾がデザインした「つみき」や、デンマーク製の木製ブロック、ミニチュアレンガなどを用いて、自由に手を動かすことができる。これは展示の付随的な要素ではなく、その中心にある考え方でもある。建築は専門家だけのものではなく、誰もが自らの手で環境を形づくることができる――そんなメッセージが、この場には込められている。
Photo: Jacopo La Forgia / Copenhagen Contemporary木や土の香り、指先に感じるレンガのざらつき、床を滑る光の動き。このインスタレーションでは、建築は目で見るだけでなく、五感を通して体験される。池口氏の願いは「ただ、人々がここに惹きつけられ、好奇心を抱き、純粋に楽しんでくれること」だ。木漏れ日の下に立つとき、人は無意識に空を見上げる。隈研吾がコペンハーゲンでつくり出したのは、そんな原初的な感覚を呼び起こす場所なのかもしれない。本展は、2027年2月21日まで、コペンハーゲン・コンテンポラリーで開催されている。
Earth I Tree designed by Kengo Kuma and Associates
Credit: Yuki Ikeguchi, partner in charge of design
Project team: Asger T. TAARNBERG, Yasemin Sahiner, Nicolas Guichard
Construction: Barlby Carlsson + CC
Structure: Buro Happold
Illumination: Anker&Co
Supported by: Nordea, Realdania, Dreyers Fond, The Danish Arts Foundation, Toyota Foundation
Sponsored by: Buro Happold, Dinesen, Petersen Tegl, Anker & Co, Kvadrat



