山形県寒河江市の商業ビル、フローラ・SAGAの2階に、「寒河江百貨店」がオープンした。そのプランニングに携わったのは、寒河江市出身で、「1冊の本を売る書店」をコンセプトとする東京・銀座の「森岡書店」店主の森岡督行だ。唯一無二の百貨店オープンに至った経緯と今後の展望について、現地でインタビューを行った。
---fadeinPager---
かつての百貨店を「100点の商品」で再生
「自分が子どもだった1980年代、ここは十字屋という百貨店だったのですが、本当に夢と希望に満ちた場所だと感じたことをよく覚えています。雑誌やガンプラ、ファミコンのカセットやジクソーパズルなどをここで買いました。しかし、やはり日本各地の地方都市と同じように、寒河江市もどんどん中心部が衰退していき、百貨店も広く有効活用されているとは言い難いような状況がこの30年ぐらい続いています」
寒河江駅から歩いて5分ほどの市の中心部、本町通りの十字路交差点に十字屋百貨店がオープンしたのが1982年のこと。業績が伸びず、1986年に総合スーパーへと業態を変更したが、やはり鳴かず飛ばずの状態が続いてしまう。2000年に建物と敷地を寒河江市が取得し、食料品店、書店、寒河江市美術館などが入居する「フローラ・SAGAE」として生まれ変わり、現在まで営業を継続。ギリギリの採算で続けてきたのだろう。地元の経営者仲間たちで構成される「一般社団法人 長岡山会議」から、この場所をどうにかできないだろうかと森岡は相談された。
「もともと百貨店だった場所なので、ものが100個くらいあったら百貨店と呼んでもいいのではないでしょうかと、市にそういう提案をしてみたらどうかと申し上げたのです。そうすれば、ものから派生した展覧会やトークイベントを開催することで、地域の人々の交流の現場になり、喜んでくださる方も多くいらっしゃるかもしれない。その提案が受け入れられ、徐々に具体化していくことになりました」
---fadeinPager---
黒川紀章の建築から着想した空間づくり
100個のもの選びと、空間作りは並行して進められた。共通のテーマは、「反復と単純」。建築設計事務所「kafta」の佐藤大介によるリノベーションのヒントとなったのが、黒川紀章が設計に携わった寒河江市役所の建築だ。生物の新陳代謝のように、発展に合わせて増殖していくことを提唱したメタボリズム建築のひとつの形として、用途に合わせて自由に区切ったりつないだりできる回廊型の空間が作られた。
「メタボリズムの考え方に従って、寒河江市役所の内部構造を寒河江百貨店のフロアに増殖してみようと思いついたのです。ロの字形の構造体を作りつないでいくことになったのですが、ここは窓のない空間なので、構造体の開口部が窓のような印象になることにもあとから気づきまして、よりこの構造体に親しみを持つようになりました。建築家の佐藤大介さんの感性と経験によって、私が新宿の珈琲貴族エジンバラで夜中に寝言を言いながら書いたプランを形にしてくださいました」
フロアの中央には、ご当地料理としてそばが有名な寒河江らしく、そば粉のクレープであるガレットを提供するカフェを設置。100の商品が並ぶ売場とレンタルオフィスなどの空間が、回廊型で中央のスペースを取り囲むように並ぶ。では、100点のものはどのように選ばれたのだろうか。「単純と反復」という全体のコンセプトに沿って行われた。
---fadeinPager---
古着からアンティークまで、100点に込めた美意識
「日本の美意識のあり方を自分なりに考えたのですが、そのひとつとして、ものの本質を前に出すときには、マイナスの美意識によって引き算を重ね、そこで出てきたものを押し出すという方法があるのではないかと思います。引いて出てきた本質に少しの違いを加え、繰り返し行っていくという美意識です。商品選びもそうしたテーマに沿って行いました」
「Room」と名付けられた空間に並ぶ商品をいくつか具体的に見ていきたい。
---fadeinPager---
シャルロット・ペリアンの椅子が象徴するもの
どの商品も魅力的であるが、あえて一つ選んで欲しいとお願いすると、森岡はシャルロット・ペリアンの『レザルクチェア』を挙げてくれた。
「日本の工芸をブラッシュアップすることを目的に、シャルロット・ペリアンは1941年に来日しました。その際に柳宗悦と山形にも来ており、冬場の農村で作られる工芸品をワールドワイドで通用するデザインにするための指導を行ったそうなんですね。そうした歴史的背景があり、また換言すれば、デザインによって地域の課題を解決するという取り組みだったと思うので、それは現在、東北芸術工科大学が推進していることとも通じると感じたので、ペリアンの椅子を選ばせていただきました」
また、古着も買い付けて販売しているが、それは地元の若い人々からのリクエストを受けて実現した。実際にかなり売れているという。
「自分も寒河江にいたころ、古着を買いたくても地元では買えなかったので、仙台まで足を運んでいました。仙台で買った古着で身支度をしたら、今度は渋谷へ、という感じで。だから寒河江でも若い子たちに古着を手に取ってもらえているようで嬉しいです」
---fadeinPager---
地域の人々が集う、新しい百貨店を目指して
オープン時に並んだ100の商品は7月までを目処に展示販売され、売却済みのものを中心に順次入れ替えられていく予定だという。また、6月半ばより、陶芸家の吉田直嗣が手がけた器の展示販売も計画しているように、100の商品を選ぶのとは別に、ポップアップの企画も控えている。100個のものを集めて百貨店というのはとんちのようでもあるが、その発想の転換には、大いなる可能性が感じられる。
「これまで書店も百貨店も、とくに地方では立ち行かないというように思われてきました。しかし、そういったところにじつは可能性があると思いたいんですね。そこに町の人が集まってきて、ちょっと一息ついたり、何かを購入したり、学生であれば勉強したり、各々の使い方を見つけて欲しいと思っています。やりたいという意見があれば柔軟に対応できるはずなので、地元の方が好きなアーティストを呼んでトークイベントや展示をして、収益が生まれるようなそんな場所になってくれたら嬉しいですね」
1冊の本を売る書店の店主が企画した、100個の商品を販売する百貨店(非売品も含む)。百貨店とはこうあるべきだという既成概念を解体することで、購買意欲や多様な文化への好奇心を刺激する新たな場が生み出された。魅力的な企画の実現に向けて、現在も下準備を進めているというから何が行われるのか継続的に追いかけていきたい。そして、寒河江百貨店のアイデアに刺激を受けた別の地域から、新たな取り組みが生まれることにも期待が高まる。
寒河江百貨店
営業時間:【Studio、Office】10時〜19時、【Room、Cafe】11時〜17時
水曜定休
山形県寒河江市本町2-8-3 フローラ・SAGAE 2F
TEL:0237-84-0022
https://sagae100.jp/about