【パリ未公開のアトリエを体感】ルオー芸術の源泉に迫る展覧会|パナソニック汐留美術館

  • 文&写真:はろるど
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『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』展示風景より、手前中央が『モデル、アトリエの思い出』(1895年/1950年頃)

20世紀のフランスを代表する画家、ジョルジュ・ルオー(1871〜1958年)。その創作の聖域ともいえるアトリエに焦点を当てた展覧会が、東京・港区のパナソニック汐留美術館にて開かれている。ジョルジュ・ルオー財団の特別な協力のもと、パリにあった最晩年のアトリエを日本で初めて再現するなど、これまでの回顧展とは一味違うアプローチから、ルオー芸術の核心へと迫っている。

ギュスターヴ・モローのアトリエで学んだルオー

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『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』展示風景より、中央が『ウォルスキ王トゥルスの館のコリオラヌス』のための習作(1894年)

1890年に国立美術学校に入学したジョルジュ・ルオーは、2年後にはギュスターヴ・モローのアトリエに入り、1898年にモローが世を去るまで教えを受ける。『ウォルスキ王トゥルスの館のコリオラヌス』のための習作は、この頃に制作された数少ない現存する作品のひとつ。また受難を目前にして祈りを捧げるキリストを描いた『ゲッセマニ』は、ルオーがモローの生徒になった年の作品で、キリストの横顔の表現などに師の影響を見ることができる。

モローの没後、ルオーはアトリエで一緒に学んだマルケやマティスらと、パリのクリシー広場近くに共同アトリエを構え、そこで娼婦などをモデルに制作を展開するようになる。この時代の代表作『二人の娼婦』は、アカデミックな伝統から離れ、同時代の芸術動向であったフォーヴの影響が色濃く反映されたもの。ルオーは娼婦やサーカスの芸人といった、社会的に弱い立場に置かれた人々に目を向け、その姿を主題として描き続けた。

画商、アンブロワーズ・ヴォラールがアトリエを提供する 

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『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』展示風景より、左から『裁判官たち』(1938〜39年)、『道化師』(1937〜38年)、『キリスト』(1937〜38年)

ルオーの画業を語るうえで、画商、アンブロワーズ・ヴォラールの存在は欠かせない。1907年にヴォラールはルオーと初めて出会うと、作品に強く魅了される。1917年にはルオーのアトリエにあったすべての作品を買い上げるなど、主要な画商として画家を支えていく。そのヴォラールがルオーにアトリエを提供したのは1925年のこと。パリ7区マルティニャック通り28番地にあった自らの邸宅の最上階を、ルオーにアトリエとして自由に使わさせた。

『道化師』、『裁判官たち』、『キリスト』の3枚は、ヴォラール邸宅で制作されたことが明らかな作品だ。いずれもルオーの重要なモチーフで、黒い輪郭線を伴いつつ、ステンドグラスの輝きを思わせるような色彩と重厚なマチエールを特徴としている。また同邸宅にて絵筆をとるルオーの写真には、ルノワールの絵画が写り込んでいる。孤独な画家と見做されがちなルオーだが、実は同時代の画家から刺激を受けながら、独自の画風を探求していた。---fadeinPager---

アトリエ再現展示からわかるルオーの制作スタイルとは?

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『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』展示風景より、「ルオーの最後のアトリエ」再現展示

第二次世界大戦中はフランス各地へ疎開し、厳しい環境の中でも、限られた画材道具を用いて制作を続けたルオー。戦後、パリへと戻ると、1948年にリヨン駅近くのアパルトマンの一室に最後のアトリエを構える。このアトリエのある場所は現在、ジョルジュ・ルオー財団の拠点となっているが、本展ではルオーが実際に使用していた画材道具とともにアトリエの一部を再現している。パリでも公開されていない空間だけに、その実像に触れられる貴重な機会となっている。

2メートル×3メートルほどの半円形の作業テーブルがアトリエの中央に置かれ、その上には200本を超える大小様々な筆と膨大な油絵具のチューブ、パステルやインク、さらにパレットナイフやエボーシュと呼ばれる画稿などが並んでいる。これらを目にするとルオーが様々な画材や技法を行き来しながら制作したことが分かるが、同時にイーゼルを使わず、テーブルの上に作品を平置きしながら描いていたというスタイルも浮かび上がる。

近年、新たにコレクションに加わった新収蔵品も公開!

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『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』展示風景より、一番左が『エジプトへの逃避』(1952年)

ルオーの作品には、額や裏面に着彩が及ぶ例が少なくない。中でも表と裏がともに公開された『エジプトへの逃避』は、画面にとどまらずに額縁自体にも彩色が施された作品だ。長くアトリエに置かれていた本作は、納得のいくまで加筆が重ねられ、やがてカンヴァスを超えて額縁にまで到達する。また複数の作品を同時進行で制作していたため、その過程で裏側に絵具が偶然付着するものもあった。

開館以来、ルオーの作品を収集し、いまでは約270点のルオー作品を所蔵する同館は、いわば日本における「ルオーの美術館」。近年は師のモローの油彩や、ルオーが日本の錦絵を写した『日本の武士(武者絵)』といった珍しい作品を収蔵し、コレクションの幅を広げている。ルオーをよく知る人にも、これから出会う人にも、それぞれの視点で楽しめる『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』へと足を運びたい。

※作品は「再現展示」を除き、すべてパナソニック汐留美術館蔵

『ジョルジュ・ルオー アトリエの記憶』

開催期間:開催中~2026年6月21日(日)
開催場所:パナソニック汐留美術館
東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4F
開館時間:10時〜18時 ※入館は17時半まで
 ※5/1(金)、6/5(金)、19(金)、20 (土)は20時まで開館(入館は19時半まで)
休館日:水(ただし4/29、5/6、6/17は開館)
観覧料:一般¥1,200
 ※土・日・祝日は日時指定予約(平日は予約不要)
https://panasonic.co.jp/ew/museum/

はろるど

アートライター / ブロガー

千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。

はろるど

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千葉県在住。WEBメディアを中心に、アート系のコラムや展覧会のレポートを執筆。日々、美術館や博物館に足を運びながら、作品との出会いや発見をSNSにて発信している。趣味はアートや音楽鑑賞、軽いジョギング。そしてお酒を楽しむこと。