【巨大アルマジロ球場】ラスベガス砂漠に出現…MLB新本拠地の奇想建築が新たなランドマークに

  • 文:青葉やまと
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ラスベガスの目抜き通り「ストリップ」の南端に、金属の鱗をまとった巨大な“アルマジロ”が姿を現しつつある。正方形の金属パネルに覆われた5つのアーチが幾重にも折り重なったその姿は、まさにアメリカ南西部に生息するアルマジロのシルエットそのものだ。

ラスベガスに登場する「アルマジロ」

この建造物こそ、2028年からMLBアスレチックスの新天地となる球場「ラスベガス・ボールパーク(仮称)」だ。設計を手がけるのはデンマークの建築設計事務所のBIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)(https://big.dk/projects/athletics-las-vegas-ballpark-16435)とHNTB。トロピカーナ通りとリノ通りの間、約9エーカー(東京ドーム1個弱の広さ)の敷地で、3万3000人収容の屋根付き球場の建設が進む。BIGは、2018年にオークランドで進められていたアスレチックスの球場計画から同球団との協業を続けてきた。

建築設計事務所BIGの設計では、完成すればエントランスの巨大なガラス壁越しに、ストリップとニューヨーク・ニューヨーク・ホテルのスカイラインが視界に広がる。金属の外装は昼は陽光にきらめき、夜にはストリップのネオンに染まるという。

旧本拠地オークランド・コロシアムの老朽化に長年苦しんだアスレチックスだが、新球場計画が持ち上がった後も幾度となく挫折を経験した。最終的にMLBオーナー会議の承認を得て、ラスベガスへの移転に踏み切った。砂漠に降り立ったこのアルマジロだが、なぜこの姿に決まったのだろうか。

選手に間近に迫る観客席

 

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独特な造形は、ネバダの砂漠の気候を踏まえてのものだという。

野球の優勝旗をかたどった5枚の「ペナントアーチ」が、砂漠の容赦ない直射日光を遮る。フィールドに届くのは、北向きの高窓から落ちる柔らかな間接光だけ。厳しい気候への対処を設計の要に据え、「アルマジロ」の外殻にたどり着いたのは、いわば必然だった。

気候と並んで、もうひとつの設計原理がある。「親密さ」の追求だ。すなわち、観客をフィールドに極限まで近づけること。手本にしたのは、ボストンのフェンウェイ・パークやシカゴのリグレー・フィールドなど、観客席とフィールドの近さで知られるMLBの歴史的球場だった。

そこからBIGが導き出したのが、上下2層のボウル構造だ。英建築デザイン誌のデジーンはこの構造により、MLBのどの球場よりもホームプレートに近い座席と、最小のファウルテリトリー(ファウルラインから観客席までの空間)が実現すると指摘する。スペクタクルの街ラスベガスに、あえて密度の高い観戦空間を持ち込む、逆説的な設計だ。

 

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来場者は入場の瞬間から、その親密さを肌で体感する。幹線道路から高架になったプラザを経て、メインコンコースへと入場。ガラスのアトリウムを抜けると、フィールド全体が一気に視界に飛び込んでくる。グラウンド間近の客席でも快適に過ごせるよう、座席の足元から空調の冷気を送るなど、暑さ対策も施される。

総工費20億ドルを補う「仕組み」づくり

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 壮大な構想だけに、資金面の課題は大きい。米ラスベガスの地方紙のラスベガス・サンによると、総工費は20億ドル(約3000億円)にのぼる。新国立競技場の建設費(ザハ案撤回後)のおよそ2倍だ。

アスレチックスはすでに3億ドル(約450億円)を自前で投じたが、道のりはまだ長い。ネバダ州とクラーク郡も最大3億8000万ドル(約570億円)の公的資金を承認済みだが、アスレチックスのサンディ・ディーン副会長によれば、この公費をいつ申請するかはまだ決めていないという。

資金面を万全にすべく、座席から資金を生み出す枠組みが用意された。スタジアム管理局がアスレチックスによるパーソナル・シート・ライセンス(PSL)の販売を承認したのだ。PSLとは、一時金を払うことで特定の座席を確保する権利を購入できる仕組みで、今回は主に高級エリアの一部席が対象となる。

アスレチックスのマーク・バデイン社長は、「シーズンチケットの予約リストには2万人以上が登録している。需要があるので、プロジェクト推進に活用する」と語る。

チケットは24時間で完売

スタジアムはすでに着工済みで、ラスベガス・サンによれば、基礎工事がすでに完了している。建物を支える控え壁2基が立ち上がった。下層スイートレベルやメインコンコースの施工も進む。残る控え壁は5月までに仕上がる見通しで、施工業者によると、「スケジュール通りに進んでいる」という。

待望の新球場にファンは期待を募らせる。供用開始後は20ドル台(約3000円台)・30ドル台(約4500円以上)の手ごろな席を数多く設ける方針で、ファミリー層を球場に呼び込む専用チケットの設定も見込まれている。実際、球場の完成に先立って6月にラスベガスで開催されるレギュラーシーズン6試合のチケットは、シーズンチケットの事前購入を申し込んだファンへの先行販売からわずか24時間で完売した。

設計を手がけるBIGは、コンサートや会議にも使える多目的施設として構想した。敷地にはホテルやカジノも設ける計画だ。2028年春、砂漠という制約から生まれたアルマジロ状の建築が、ラスベガス・ストリップの新たなランドマークとなる。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。

青葉やまと

フリーライター

1982年生まれ。大手メーカー系企業でのシステムエンジニア職を経て、2010年から文筆業に転身。IT・アートから国際政治・経済まで、幅広くニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『プレジデントオンライン』などに寄稿中。