ロンドン発の会員制クラブ・ソーホーハウス(Soho House)が、2026年4月、東京・表参道に日本初進出を果たした。新たに誕生したソーホーハウス東京(Soho House Tokyo)では、空間を特徴づける要素としてアートコレクションが大きな役割を担っている。
このキュレーションを手がけたサラ・テルツィに、コレクションの構成意図や、日本の現代美術を国際的な視点でどのように捉えているのかなどを聞いた。
国内外で活躍する40名以上のアーティストの作品を公開!

ソーホーハウスは、1995年にニック・ジョーンズがロンドンで創設した、クリエイティブコミュニティのための会員制クラブ。単なる社交の場にとどまらず、食、滞在、ウェルネス、文化体験を横断する環境を整え、都市における「もうひとつの拠点」として機能している。その日本初拠点となるソーホーハウス東京は、表参道Grid Towerの11階から14階にかけて展開。クラブスペースやワーキングスペースを中心に、ウェルネススタジオ、それに宿泊施設などが連なっている。
「長い間、東京にソーホーハウスを開設することを待ち望んでいました。まさに『やっとこれた!』という感覚です。私たちは世界19ヵ国・約50のハウスで約11,000点にのぼるアート作品をコレクションしていますが、今回の東京のスペースでは、国内外で活躍する40名以上のアーティストの作品を紹介しています。そのうちのおよそ3分の1のアーティストが、密接な対話や協働のもと、この場所のために新作を制作してくれました」
アートととともにある場であることを体感してほしい
1階のメインエントランスを抜けると、奥行きのあるレセプションエリアが広がる。アースカラーを基調とした空間は、落ち着いたトーンの中に柔らかな陰影をたたえ、館内へと自然に連続していく。レセプションデスクには京都の牧野漆工芸による漆パネルを採用。壁面にはKAMISMの手漉き和紙が施され、繊細なテクスチャーが様々な表情を見せる。異なる素材が層を成して響き合うことで、装飾性を超えた、確かな重厚感が生まれている。
「ソーホーハウスは、アートととともにある場であることを体感してほしいと思っています。まずレセプションエリアでご覧いただきたいのは、日本の伝統的な衝立を現代的に再解釈した大谷徹の作品です。たくさんの紙片が用いられていて、人物の顔やハート型のモチーフなどが浮かび上がっています。パネル状のフォルムと相まって調度品のような佇まいも感じさせますが、ゲストを最初に迎える場にふさわしい、サイト・スペシフィックなインスタレーションと言えます」---fadeinPager---
日本の現代アートの広がりを描き出す。アーティストを選んだ視点とは?
ラウンジからバー、レストラン、さらにはエレベーターホールやコリドーなどの各空間には、絵画や写真、また陶芸からデジタルアートといった多彩なアート作品が配置されている。その多くは日本にゆかりを持つアーティストによるコミッションワークだが、どのような視点で選定が行われたのだろうか。
「選定において重視したのは、日本や東京という都市との関係性です。ここで生まれた、学んだ、あるいは滞在した経験を持つなど、この街と何らかの接点を持つアーティストを軸にしています。同時に、東京から得たインスピレーションが作品に反映されていることも重要な要素です」
「ただし現在の拠点にこだわっていません。たとえばキャロライン・リッカ・リーのようにブラジルを基盤としながら、日本にルーツや意識的なつながりを持つ作家も含まれます。複数の土地を往還しながら活動してきた視点こそが、このコレクションに多層的な広がりをもたらすと考えています」
池田亮司から森本啓太、それにデヴィッド・ホーヴィッツまで
毛利悠子と池田亮司といった国際的に評価の高いアーティストの作品が、ソーホーハウス東京のアートコレクションのハイライトを飾っている。このうち池田の『data.scape [universe]』とは、音と映像が緊密に結びつきながら、空間と時間の知覚に揺さぶりをかける壁面型ニューメディア・インスタレーションだ。一方で、都市の叙情を詩的に表現するアーティストとして、近年日本でも大きく注目を集めている森本啓太の絵画も強い印象を残す。
「森本の作品には、非常に豊かな詩情が宿っています。画面に描き出される人工的な光はどこまでもポエティックで、空間に静謐な空気をもたらします。例えば街灯や自動販売機といった、誰もが見慣れた日常のありふれた風景の断片。どれも何気ない一瞬でありながら、ふと足を止めて振り返ってしまうような、心地よい緊張感を創出している点がとても秀逸です」
クラブバーの窓際に沿うパネルに配された、デヴィッド・ホーヴィッツの『NOSTALGIA』シリーズにも注目したい。これはアーティストが継続的に展開してきたプロジェクトで、散文詩のように断片化されたテキストに、「.jpg」といったデジタルのデータ、そして日時の記述が組み合わされている。しかし写真のような具体的イメージはどこにも提示されない。一体どのようなコンセプトによって作られているのだろうか。
「ホーヴィッツは2018年以降、自身の写真アーカイブを消去する過程で、消える直前のイメージに短いテキストを残してきました。画像そのものを取り払い、時間などの情報だけをとどめることで、記憶や記録のあり方を問い直しています。テキストのみとなった作品は、見る者の想像を喚起する装置として機能します」
「ソーホーハウス東京では、それらを窓際に連ねることで、自然光の移ろいとともに見え方が変化する構成としました。文字のブロンズと壁面との関係性にも配慮し、デザインチームとともに空間全体を繊細に設計しています。実際に壁面に作品が収まった光景を目にしたときは、私も強い手応えを感じました」---fadeinPager---
サラ・テルツィが語る、日本のアートシーンとは?
世界各地のソーホーハウスにおけるアートプロジェクトを統括してきたサラ・テルツィ。東京の拠点では日本のアートシーンにおける多様なスタイルを見せたいと語る。それでは彼女にとって、日本の現代アートをどのように評価しているのか。
「日本の現代アートの魅力は、伝統的な要素を内包しながら、それを更新し続けている点にあります。たとえばデジタル表現であっても、根底には伝統的な美意識が息づいていて、それを踏まえたうえで新たなかたちへと発展させている。過去と未来が同時に存在しているような感覚があります」
「さらに印象的なのは、その『レイヤーの深さ』です。表層的な引用にとどまらず、一つの作品の中に複数の文脈や時間軸が折り重なっている。ここまで多層的な構造を感じられる地域は、世界を探しても決して多くはありません。だからこそキュレーターとして、『このレイヤーの向こう側には何があるのか』と、知的好奇心を掻き立てられながら深掘りせずにはいられないのです」
クリエイティブな人たちのメンバーコミュニティで、全世界を一つにしていく
旬の食材を活かした料理を提供するレストランや、洗練されたカクテルを味わえるクラブバーも備え、さまざまな時間の過ごし方を提案するソーホーハウス東京。プールテラスからは、東京タワーやはるか遠くの富士山まで一望できるパノラマビューが広がる。こうしたスペシャルな環境を通して、サラ・テルツィは、訪れるメンバーにどのような体験を届けたいと考えているのだろうか。
「ソーホーハウスとは、メンバーが緩やかにつながり、世界規模で一つのコミュニティを形成していくという、とても創造的な場です。それと同時に、これほど多様で先鋭的なアートワークを、美術館のような専門施設ではない環境で体験できる場所は、他にほとんどないと自負しています」
「通常であれば作品とは一定の距離を保って向き合うものですが、ここでは食事やお酒、会話や音楽とともに、より自由なかたちでアートに触れることができます。そうした開かれた場の中で、メンバーの一人一人が豊かで心地よい時間を過ごしてほしいと願っています」
『ソーホーハウス東京 』
住所:東京都港区南青山3-8-35 表参道Grid Tower11F~14F
客室数:42室
延床面積:約4,300㎡
付帯設備:ラウンジ、バー、レストラン、プール、ウェルネス、スタジオほか
https://www.sohohouse.com/ja/houses/soho-house-tokyo









