現代美術家・松山智一がN.Y.のタイムズスクエアを3分間ジャック──真夜中に「希望」が咲く圧巻の作品とは

  • 写真&文:Pen編集部
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世界で最も広告価値が高いとされる場所のひとつ、ニューヨーク・タイムズスクエアの巨大スクリーンを3分間ジャックするーー。そんな驚きの企画を実現した現代美術家、松山智一の作品が話題だ。

クレジット表記 Photo(s) by Michael Hull courtesy of Times Square Arts_5s.jpgニューヨーク、マンハッタンにあるタイムズスクエア。深夜11:57分から3分間、あらゆる広告が消え、松山智一の作品が一斉に流れる。4月末まで上映中。 photo: Michael Hull courtesy of Times Square Arts

真夜中の23時57分。日付が変わる3分前、ニューヨーク・タイムズスクエアを囲むおよそ100面の巨大スクリーンの映像が消え、一斉に真っ白になる。

次の瞬間、カラフルなストライプが走ったかと思うと、無数の花が咲き乱れ、あたり一面が鮮やかな色に包まれる。ストライプは人の肌の色を、花は無数の人種を象徴するモチーフだ。松山特有のビビッドな色の洪水にしばらく見とれていると、「4つの自由」を象徴する人物が現れ、やがてすべてのスクリーンがオレンジ色のバスケットボールに埋め尽くされる。ボールが次々に落下すると、騎馬に乗った人物がスクリーンの中を駆け回り、最後にアメリカンキルトで形どられた地図を背景に、再び「4つの自由」の象徴たちが現れる−−。

あっという間の3分間。日付が変わり、スクリーンに広告が戻ってくると、まるで束の間の夢を見ていたかのようだ。 

松山智一の映像作品『Morning Again』。このアートプロジェクトは、タイムズスクエアという公共空間でLEDパネルの広告枠を⼀時的に開放し、アート作品を上映する⾮営利プログラムとして実施されている。

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広告の街に浮かぶ、3分間のアート

この作品を手掛けたのは、ニューヨーク・ブルックリンを拠点に活躍する現代美術家・松山智一だ。2026年4月1日から1カ月間、タイムズスクエアで開催される世界最大級のデジタル・パブリックアートプログラム「タイムズ・スクエア・アーツ・ミッドナイト・モーメント(Times Square Arts Midnight Moment)」に、最新映像作品『モーニング・アゲイン(Morning Again)』を出展している。デイヴィッド・ホックニーやオラファー・エリアソンといった世界のトップアーティストが名を連ねてきたこのプログラムに選ばれたのだ。

タイムズスクエアは、96面以上の巨大LEDパネルにあらゆる広告が同時に映し出される、現代社会の「情報過多」と「資本主義」を体現するような場所だ。1日の終わりと新しい1日の始まりの狭間、その光が消えてアートが現れる——。本来アートを見せる場所とは真逆のその舞台で、松山は何を伝えるべきか、4カ月ほど悩み続けた。

「アメリカの社会問題を可視化したいと思いました。でも、タイムズスクエアで批判してもしょうがない。社会の断絶や絶望がまだ続いている中で、僕は希望を伝えたかった」

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松山智一(まつやま・ともかず)● 1976年、岐阜県生まれ、ブルックリン在住。上智大学卒業後、2002年に渡米し、プラット・インスティテュートを首席で卒業。ペインティングを中心に彫刻やインスタレーションなど幅広く手掛け、国内外から高い評価を得る。世界各地の主要機関に作品が収蔵されるほか、2020年にはJR新宿東口駅前広場に7mの巨大彫刻を制作。24年のフォンダシオン・ルイ・ヴィトンへの参加、25年の麻布台ヒルズ ギャラリーでの大規模個展など、精力的に活動を続ける。

「4つの自由」に込めた祈り

ニューヨークという街には、さまざまな理由で“個”が集まってくる。いまアメリカは迷走してはいるが、人種も性別も関係なく、どこの国よりも自由に意見をぶつけ合っているシーンもある。松山はそこに、希望を見た。

作品のテーマに選んだのは、「4つの自由」——「心の自由」「都市の自由」「個の自由」「性の自由」だ。それぞれをアリシア・キーズ、スウィズ・ビーツ、渡辺直美、アレックス・コンサーニといった実在の人物に重ね合わせ、作品に昇華した。彼らを選んだのは、都市の記憶と文化を体現する存在だから。抽象的な概念を、生きた人間の姿に宿らせることで、作品はぐっとリアリティを帯びる。 

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作品『モーニング・アゲイン』の中で現れるワンシーン。渡辺直美(左)は「Self-Expression(個の⾃由)」を体現している。

 

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3分間に凝縮された、膨大なプロセス

いざ制作を始めると、「3分間は意外に長いとわかった」と松山は言う。通常の広告が長くて90秒ほどであることを考えれば、ショートフィルムをつくるようなものだ。

「制作には、ゆずのプロジェクトで協業したアニメーションディレクターのファンタジスタ歌磨呂くんにも参加してもらいました。まず僕がストーリーボードと原画をつくり、それをサイバーエージェントの協力のもと、AI技術で何千というパターンの作画を生成しました。その中からいいものを選び、歌磨呂くんの手でつないでいく、という手法を取ったんです」

いわゆる商業アニメーションとしての表現ではなく、現代美術における映像表現として成立させることを前提に、3分という時間の中でどのような映像体験を立ち上げるかというところから制作を進めていったという。

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タイムズスクエアのこのアートプロジェクトは年間約250万人が目にする。この日も真夜中にもかかわらず、多くの人が足を止めて作品を鑑賞していた。この3分間の露出は、100億円以上の広告価値に相当すると言われる。 photo: Michael Hull courtesy of Times Square Arts

作品を上映するのは、約100面のスクリーンをつなげた巨大かつ独特な屋外空間だ。大きな作品を手掛け慣れた松山にとっても、想定をはるかに超えるスケールだった。場所の性質上、現地でのテスト上映は叶わず、本番で初めてその全貌を目にした松山は、自分でもその映像に圧倒されたという。

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協業が生み出すスケールと未来

近年、松山の活動フィールドはとどまることなく広がっている。麻布台ヒルズ ギャラリー(2025年、東京)や弘前れんが倉庫美術館(23年、青森)はもとより、SCAD美術館(25年、ジョージア州)、宝龍美術館(23年、上海)といった海外の美術館、バワリー・ミューラルやシカゴ・パブリック・ライブラリーなどパブリックスペースへの進出も続く。イッセイミヤケとの協業もさらに深まり、展示の場も制作の方法も、年々スケールアップしている。

その原動力のひとつが、「協業」への信念だ。ブルックリンのスタジオにはおよそ35人のスタッフが働き、制作担当のみならず人事担当やリサーチャーまでいる。 

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ブルックリンのいまいちばんクールなエリア、グリーンポイントに構える約700平米のスタジオ。スタッフは朝9時に出勤し、松山の指揮のもと制作に没頭していた。

「自分ひとりですべてできる、という芸術家にありがちな過信はしないと決めているんです。協業することで力は掛け算になる——それはチーム全体が日々実感していることです。視野が"広がる"というより、視座そのものが"引き上げられる"感覚があります」

今年9月には、ポップアートの創始者のひとりであるトム・ウェッセルマン財団のスタジオで、彼の作品と並べて自身の作品を展示する予定。2027年5月からはインディアナポリス美術館での大規模個展も控えている。

世界を舞台に、着実に、しかし大胆に歩みを進める松山智一。次の一手が、楽しみでならない。

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制作スペースだけでなく、バックオフィスも充実している。松山の後ろにいるのはリサーチャー・チーム。「みんなで協業するからこそ、新しい作品が生み続けられる」と松山は言う。

 

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最新の大型作品。アメリカの現代的な居住空間とビリヤード台がつながり、不思議な空間に。随所にアメリカのカルチャーが埋め込まれている。

Times Square Arts: Midnight Moment
『Morning Again』

会期:〜2026/4/30
上映時間:23:57~24:00(3分間)
会場:ニューヨーク・タイムズスクエア41st-49th Sts
www.timessquarenyc.org/tsq-arts-projects/morning-again