【まるで砂の惑星】砂漠に“地層のように現れる”居住型天文台、風景と一体化する建築に驚きの声

  • 文:宮田華子
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アメリカ

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Image courtesy of VRANTSI

砂漠の地平に、地層がそのまま押し出されたかのような建築が横たわる。アメリカ・ユタ州の荒野を舞台に提示されたこの印象的なビジュアルは、映画「DUNE/デューン 砂の惑星」の世界観を彷彿とさせる。

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Image courtesy of VRANTSI

これは建築スタジオVrantsiによる「砂漠の天文台ハウス(Desert Observatory House)」のコンセプトである。現時点ではあくまで構想段階にあり、公開されているのはティーザーイメージに限られるが、その完成度の高い描写が関心を集めている。

砂漠に同化する“居住型天文台”の構想

本プロジェクトは、建築を風景の延長として捉える発想から導かれている。ユタ州のメサや峡谷といった地形に着想を得て、建築は低く横に伸びるプリズム状のボリューム(地面からせり出す帯状のかたまり)として構成される。傾斜した面や鋭い輪郭は周囲の岩肌や地層と呼応し、あたかも大地の一部がそのまま露出したかのような印象を与える。

 

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Image courtesy of VRANTSI

工法は版築(土を型枠に入れて突き固め、層状に積み上げてつくる建築工法)が想定されており、土地の色調に近い質感を持たせることで視覚的な一体感を強めている。また建物の一部は地中に埋め込まれ、土の熱容量を利用したパッシブな温熱制御も意図されている。造形的な統合にとどまらず、環境条件に応答する設計でもある。

内部は約150㎡の住居であり、寝室等のプライベート空間は半地下に配置される。一方でリビングや観測スペースは地上に張り出し、広大な地平線と空を取り込む構成だ。居住と観測を重ね合わせ、「住むこと自体が風景を観る行為となる」点がデザインの特徴である。

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Image courtesy of VRANTSI

ギリシャ拠点の建築スタジオが描くビジョンとは?

Vrantsiは2019年に設立された建築設計スタジオ。ギリシャのアテネとテッサロニキを拠点に活動する。住宅や文化施設、インテリアなど多様な領域を扱いながら、一貫して自然環境との関係性を軸にした設計を展開している。

 

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Image courtesy of VRANTSI

同スタジオの特徴は、建築を独立したオブジェとしてではなく、地形や環境から連続的に立ち上がる存在として扱う点にある。地面に埋め込まれる、あるいは地形に沿って変形する構成を通じて、自然と人工の境界を曖昧にする。また鋭角的で緊張感のあるフォルムや、侵食や重力を想起させる造形を用い、静的な安定ではなく変化の過程を感じさせる表現を得意とする。

こうした設計姿勢は、本計画においても明確に踏襲されている。建築が「置かれる」のではなく、「現れる」かのように構想されている点に、その思想がよく表れている。

自律型居住の実験としての提案

「砂漠の天文台ハウス」は、オフグリッドでの生活を前提とした実験的な提案でもある。太陽光発電は建築本体ではなく周囲の地面に設置されたソーラーフィールドで行い、造形への影響を抑える計画とされている。エネルギーの蓄電や水の再利用も含め、環境負荷を低減した自律型の居住モデルが想定されている。

 

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Image courtesy of VRANTSI

ユタ州でのパイロットプロジェクトとして構想されているが、同様の環境条件を持つ地域への応用も視野に入るという。現段階では概念的提案にとどまるが、風景と建築の関係を再考する試みは興味深い。今後、具体的な展開に至るかどうかも含め、その動向が注目される。

https://vrantsi.com

 

 

 

 

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。

宮田華子

ロンドン在住ジャーナリスト/iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授

アート・デザイン・建築記事を得意とし、さまざまな媒体に執筆。歴史や潮流を鑑み、見る人の心に届くデザインを探すのが喜び。近年は日本のラジオやテレビへの出演も。英国のパブと食、手仕事をこよなく愛し、あっという間に在英20年。