右上:「GM-H5600-1JR」ベーシックな多角形デザインに、ランニングやフィットネス計測始め、スマートリンク機能を備える。右下:「DW-5000R」初代オリジナルを復刻し、フラットベゼルやフェイスには堅牢性を表現したレンガパターンなどを再現する。左下:「GA-V01SKE」スケルトンの有機的なデザインは近未来的。Y2K時代のパソコンなどテック製品にインスピレーションを得たポップなビタミンカラーのバリエーションを揃える。
連載「腕時計のDNA」Vol.25
各ブランドから日々発表される新作腕時計。この連載では、時計ジャーナリストの柴田充が注目の新作に加え、その系譜に連なる定番モデルや、一見無関係な通好みのモデルを3本紹介する。その3本を並べて見ることで、新作時計や時計ブランドのDNAが見えてくるはずだ。
長い歴史と伝統を誇るスイス時計に対し、国産時計は研鑽を続け、それを追う一方、独自の軌跡を辿ってきた。クオーツやGPSソーラーといった先進技術を開発し、実用道具としての時計の本質を追求することで進化を遂げたのである。あまねく人たちにより良い時間を。それは時計の民主化といってもいいだろう。かくして切り開いてきた新境地に位置するひとつがカシオのG-SHOCKである。1970年代、クオーツは世界を席巻したものの、量産と廉価により脱コモディティ化が求められるようになった。そこで生まれたのが「タフネス」という革新的な発想だ。
しかし本来、精密機械である腕時計を落としても壊れないほどの耐衝撃性の開発は難航し、2年以上を費やした結果、1983年にG-SHOCKは誕生したのだった。当初スポーツやアウトドアシーン、過酷な環境下などの用途が中心だったが、90年代にはスケーターやヒップホップのストリートカルチャーと結びつく。以降プロフェッショナルのニーズに応える本格ツールウォッチとして機能を熟成する一方、時代の感性が息づくデザインやスタイルを纏う。そして誕生から40年以上、日本が生んだ耐衝撃デジタルウォッチという唯一無二の存在はいまも進化を続けている。
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新作「GM-H5600-1JR」
タフネス&スマート機能のトレーニングツール
G-SQUADは、G-SHOCKのラインでもとくにスポーツやフィットネスに特化し、2018年に登場した。耐衝撃性や20気圧防水といった基本的な性能に、Bluetooth連携のスマート機能を加え、センサーなどの先進技術によりトレーニング計測を強化している。新作では、角形G-SHOCKのレギュレーションに倣い、SS製ベゼルの上下にディンプルを設けたデザインに、ケースバックはカーボンファイバーを採用し軽量化を図っている。ランニングやウォーキング、ワークアウトに対応し、心拍計測ができる光学式センサーや歩数計測用の加速度センサーを搭載。
ポラール社ライブラリによるトレーニング解析、睡眠による回復度の解析、呼吸エクササイズなどができるほか、血中酸素レベル計測機能といった機能を満載する。Bluetoothとの連携で専用アプリのCASIO WATCHESに対応し、通知受信・自動時刻補正・トレーニングデータ分析が可能。ソーラー駆動で充電の手間はいらず、利便性も高い。またバイオマスプラスチックを用いたストラップは装着感に優れ、トレーニングだけでなく、日常でもシームレスに使うことができる。スポーティなライフスタイルに対応する多機能G-SHOCKだ。
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定番「DW-5000R」
DW-5000R/オリジナルのSSケースや細部のデザインを再現するとともに、製造も当時と同じ山形カシオの技術者たちが手がけている。クオーツ、SS&バイオマスプラスチックケース、バイオマスプラスチックストラップ、ケース径48.9㎜、20気圧防水。¥33,000
40年余でも色褪せない機能美を最新技術で復刻
1983年に誕生した初号機「DW−5000C」は、機能の拡充を経て、約4年で後継機「DW−5600C」へとバトンを渡した。それでも基本的なデザインは継承され、周年などの節目にはスポットとして復刻してきた。1998年にはパワーソースに独自の充電ソーラーシステムであるタフソーラーも導入されたが、アイコニックなスタイルがなくなることはなかった。日進月歩の技術とともに進化するデジタルウォッチにあって、これだけ長くオリジナルデザインが支持されるのも誕生からすでに完成の域にあったからかもしれない。2024年にはカシオ時計事業50周年を祝して初代復刻モデルとして「DW-5000R」を発表し、レギュラーラインに据えたのである。
インナーケースは、それまでの樹脂素材から当時と同じSSを採用し、ストラップも長さ、形状、ディンプルの位置までオリジナルを再現した。フェイスもレイアウトからレッド、ブルー、イエローのカラーリングにもほぼ変わりはない。こうしたデザインを忠実に再現しつつ、高輝度LEDバックライトを採用、電池寿命は約5年と機能面は向上し、外装では再生可能なバイオマスプラスチックを採用する。次世代に受け継がれる、価値あるオリジンだ。
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通好み「GA-V01SKE-8AJF」

GA-V01SKE-8AJF/文字板とLCDバックライトにスーパーイルミネーターを用いたダブルLEDライトを備え、暗所でも視認性に優れる。省電力設計でバッテリーは10年間の長寿命を誇る。クオーツ、樹脂ケース&ストラップ、ケース径49.1㎜、20気圧防水。¥24,200
原点のタフネスを再解釈した近未来的デザイン
タフネスの追求によって生まれたG-SHOCKの機能美は、はからずもストリートカルチャーや先進的なファッションからも注目を集め、ツールウォッチだけでない新たな魅力の領域を広げていった。「GA-V01SKE」は、そんなエッジィな感性で原点であるタフネスを再解釈する。インスピレーションを得たのは、1990年代後半から2000年代初頭、Y2Kと呼ばれた時代のファッションスタイルだ。ポップなトーイ感覚やスケルトン素材、ビタミンカラーは、当時の21世紀への期待感を表現する。
デザインは、G-SHOCK開発当初にゴムボールの中に時計を入れて耐衝撃性を検討したプロトタイプから発想し、ストラップと一体化した有機的なフォルムのケースに、ガラス面を覆うようにした大型インデックスが衝撃を吸収するバンパーの役割を果たす。さらに針を軸に固定せず、磁石の力で取り付ける新開発のマグネティックホールディング構造を分針に採用し、磁力で固定されたショックリリース針はあえて動くことで衝撃をいなす。時刻表示は、アナログの時分針とデジタルの秒針を組み合わせ、右側の小窓では曜日と日時から多機能を切り替えて表示する。斬新なスタイルにはモード感も漂う。
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G-SHOCKの名に込められた時計の新たな世界
「落としても壊れない時計をつくりたい」という、企画書にたった一行書かれた言葉から開発は始まった。その目標がシンプルだったからこそ、難解な数式を証明するかのように創造力は広がり、情熱は集中したのだろう。中空構造や全方向カバリングといった独創的な機構が生まれた。しかし進化は止まらない。素材や構造を見直し、時代の先進技術によって磨きをかけていく。さらにフルメタル化やスマートフォンリンクなどの多機能化など多彩に展開し、コレクションを構築した。
こうしたハードウェアだけでなく、G-SHOCKをブランドとして認知させた画期的なプロジェクトがSHOCK THE WORLDだ。これは25周年を迎えた2008年にスタートしたワールドツアーイベントで、世界各都市でライブやアーティストとのコラボ展示、新作発表を開催し、ストリートカルチャーや音楽、ファッションとの強い親和性と独自の世界観をアピールしたのだ。現在もさまざまなコラボモデルや、指に着けるリングウォッチなど話題は尽きない。G-SHOCKのGはGravityを意味し、落下の衝撃に耐えることで重力からの自由を宣言した。その束縛から逃れ、さらに自由に羽ばたくのである。

柴田 充(時計ジャーナリスト)
1962年、東京都生まれ。自動車メーカー広告制作会社でコピーライターを経て、フリーランスに。時計、ファッション、クルマ、デザインなどのジャンルを中心に、現在は広告制作や編集ほか、時計専門誌やメンズライフスタイル誌、デジタルマガジンなどで執筆中。