ダーティー スプーン
下高井戸の住宅街に誕生したベイクショップの「ダーティー スプーン」は、フリーランスのパティシエやフードスタイリストとして活動してきた越川萌音が手掛ける一軒だ。店名のキュートな響きとは裏腹に、その味わいには確かな技術と繊細な設計が息づいている。
ショーケースに並ぶのは、13種類でローテーションするクッキーや、クーベルチュールチョコレートを66%使用した濃厚なブラウニーなど。いずれもフレンチレストランで磨いた技術をベースに、素材や配合にこだわったオリジナルレシピで仕立てられている。たとえば米油を使ったキャロットケーキは、しっとりとした口当たりと軽やかな後味が印象的で、ついもう一口と手が伸びる。
コーヒーは「patch coffee works」が担当。グアテマラやコロンビアを中心にブレンドされた一杯は、焼き菓子の甘さと寄り添うように設計されており、互いの輪郭をやさしく引き立てる。甘味と苦味、そのバランスの心地よさもまた、この店の魅力のひとつだ。
店内は、同世代の仲間とともにDIYで仕上げたという空間。「Dill Pickle Club」からセレクトされたインテリアや、オリジナルのアパレル、さらには越川の姉が制作した陶芸作品など、店主の身近なクリエイションが自然に溶け込んでいる。どこかアトリエのような空気が漂い、焼き菓子を選ぶ時間そのものが心地よい。
運がよければ、看板犬のノワが静かに顔をのぞかせることもある。そんな何気ないひとときも、この店の魅力の一部だろう。日常の延長にありながら、ふと気分をほどいてくれる場所。焼き菓子とともに、ゆるやかな時間を持ち帰りたい。