ティモシー・シャラメが新作映画『マーティ・シュプリーム』で着けた"ヴィンテージウォッチの謎"【映画と腕時計 Vol.1】

  • 文:Pen編集部
  • イラスト:コサカダイキ
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映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』で、破天荒な卓球選手役を演じたティモシー・シャラメ (C)2025 ITTF Rights LLC. All Rights Reserved.

映画と腕時計 Vol.1

名作映画に名作腕時計あり。劇中で印象的に登場する“あの腕時計”の秘密に迫る!

2026年3月13日公開の映画『マーティ・シュプリーム 世界をつかめ』。1950年代のニューヨークを舞台に、実在の卓球選手マーティ・リースマンに着想を得た主人公マーティ・マウザーを演じるティモシー・シャラメが、劇中で見せるファッションに注目が集まっている。

中でも話題になったのが、彼の腕元にある角型のヴィンテージウォッチだ。当初、ファンの間では「ロレックスではないか」と噂されていたが、実際には意外なブランドが選ばれていた。英『Esquire』が特定したその腕時計は、1951年製の「エルジン(ELGIN)」だ。同誌はこれを、高級なロレックスよりもリアルな「アメリカン・ペディグリー(血統)」の象徴であると評している。

シャラメがこだわった"アメリカ製"

ではなぜ、スイスの高級時計ではなく、当時の大衆ブランドが選ばれたのか。米『GQ』の取材に応じた本作のプロップマスター(小道具担当)であるジョートナーは、その舞台裏を明かしている。 彼によれば、製作陣は他のブランドも検討したものの、シャラメ本人が「キャラクターにはアメリカ製の時計がふさわしい」と主張したという。労働者階級から成り上がり、アメリカ人として世界へ羽ばたこうとする主人公の野心に、当時のアメリカ社会に深く根付いていたエルジンが見事に合致したのだ。また、この金色の時計は「彼の実際の身分より、ほんの少しだけ高く見える」絶妙な塩梅であり、成功への渇望を視覚的に表現しているという。

米国時計産業の巨人「エルジン」とは

エルジン・ナショナル・ウォッチ・カンパニーは、1864年にアメリカ・イリノイ州で創業。彼らの特徴は、スイスのような職人芸ではなく、徹底した機械化による「高品質な量産体制」にあった。修理しやすく丈夫な時計を安価に供給するスタイルでシェアを拡大し、第二次世界大戦中には軍用時計「Type A-11」を製造。「戦争に勝った時計」と呼ばれるほど、アメリカ社会に深く浸透していたブランドである。

ティモシーが着用している1951年モデルは、戦後の好景気を背景に、デザイン性の高い「ロード・エルジン」などが人気を博していた時期のものだ。しかし、その後のスイス勢の攻勢や安価な輸入品の影響で経営は悪化。1968年には米国での製造を完全に終了し、工場は閉鎖された。 現在、エルジンはブランド名こそ残っているものの、かつてのような実体はない。映画の舞台である50年代は、この「アメリカ製の時計」がまだ輝きを放っていた最後の時代にあたる。ティモシー・シャラメの腕にあるエルジンは、単なるファッションアイテムとしてだけでなく、アメリカン・ドリームの栄枯盛衰と主人公の姿を重ね合わせた、極めて雄弁な小道具と言えるだろう。

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ティモシー・シャラメが劇中で着用する、エルジンのトノー型ウォッチ。