アルバニア北部の沿岸部に位置する村落の農園地帯に、「赤い家(Red House)」と名付けられた住宅が完成した。オリーブやザクロ、オレンジの果樹に囲まれた敷地の周縁に置かれたこの家は、赤い単色の外壁と整然と並ぶ正方形の開口によって強い視覚的印象を放つ。
設計を手がけたのは、アルバニア出身の建築家ゲジム・パカリジが率いる、イスタンブール(トルコ)を拠点とする「パカリジ・スタジオ(Pacarizi Studio)」。離れて暮らす家族を含む「単一の多世代住宅」を再定義する試みとして構想され、地域に根ざした持続可能な住まいの再発明を目指して計画された。
中庭を核に、「家が家を見つめる」構造
住宅は中庭とプールを中心に据え、その周囲を居室が取り囲む。中庭は一部が屋根で覆われ、夏季には主要な生活空間としても機能する。さらに大階段が中庭から屋上へと続き、周辺の農園や遠景へ視線を開く。
パカリジ・スタジオは、「赤い家」を通じて、「建築が自らの内側を見つめる(architecture that looks into itself)」という考え方を表現した。ここでの主語は人ではなく「建築」だ。正方形の開口部から見えるのは、庭の樹木や風景だけでなく、回廊や壁面といった建物の構成要素も含まれる。窓は外部を切り取ると同時に、建築内部の関係性を可視化する装置となる。住宅は外部へ開きつつ、同時に自らの空間構造を映し返す存在として成立している。
ローカル素材による低コスト・低テクノロジー
主要構造はコンクリート造である。外壁には厚さ46センチの地元産中空レンガを使用し、断熱と仕上げには藁・砂・石灰にカゼインを混ぜた素材を採用。セメントは使用していない。赤い色彩は鉄酸化物を混入することで生み出されている。カゼインと石灰の組み合わせは耐久性が高く、再塗装を必要としないとされる。
床には地元産のピンクがかった大理石と木材を採用。石灰は現場で生産し、カゼインは近隣農家から調達された。施工は4〜5人の地元チームによって行われ、工事過程での廃棄物はほとんど発生していない。大きな固定窓で採光を確保し、窓の小さな開閉窓を用いた自然換気により、設備依存を抑えた環境づくりを実現している。持続可能性は高度な技術ではなく、地域循環型の建設プロセスと過度な操作を排した空間設計によって支えられている。
アルバニアの住宅文化と社会的変化
アルバニアでは戸建て住宅が大半を占め、多世代同居を前提とした住まい方が一般的であった。一方で、国外移住や都市集中の進行により、家族は地理的に分散する傾向にある。「赤い家」は、そうした社会的背景を踏まえ、分散した家族が再び集う拠点としての住宅像を提示する。
地域の気候や素材文化を踏まえつつ、外部からの視点を重ねることで、農村風景の中に新たな住宅モデルが提示された。日本ではアルバニアの建築情報は多くないが、本作は、戸建て住宅の可能性を見直す一つの提案といえる。今後の住宅建築を考える上で、参照される事例となりそうだ。


