思想より先に「おいしさ」がある。プラントミートがひとつの選択肢として、日常に溶け込む理由

  • 文:細谷正人
  • 現地取材コーディネイター:Naoko Unbekandt
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薄いピンク色のパッケージデザインが目立つ「La Vie」。「植物から愛と共に」「私たちに、地球にそしてもちろん友人(豚)にとって最善」と いう微笑ましいキャッチコピーが記されている。豚のイラストもにユーモアがあり、軽やかな印象のデザインだ。

日本でも大豆ミートを中心としたプラントミート商品が増えてきました。プラントミート(Plant-based Meat)とは、大豆・えんどう豆・小麦など植物由来の原料を使い、肉の味・食感・見た目を再現した食品のこと。ハンバーグやソーセージ、唐揚げなど、“肉料理の体験”を植物で代替します。畜産に比べて温室効果ガスや水使用量が少ないとされること、コレステロールゼロの商品が多く、脂質設計がしやすいこと、ヴィーガンやベジタリアン対応にとどまらず、「肉を少し減らしたい」という層の広がりに応えていることなどの理由から注目を集めています。

とはいえ、日本ではまだ日常の食卓に深く根付いたとは言いがたい状況です。2024年の日本市場規模は約9〜10億米ドル(約90〜100億円程度)。欧州と比べると、まだ小さな市場です。一方、フランスのスーパーマーケットの棚を注意深く見ると、静かな変化が起きています。大型店だけではありません。街角の中規模店でも、郊外のスーパーでも、プラントミート売り場は確実に広がっています。かつてはBio(オーガニック)コーナーの一角に置かれていた存在が、いまや棚一面を使った独立カテゴリーへと成長しました。24年フランスの市場規模は約5.37億ユーロ(約1,000億円弱)、日本の10倍程度。数字以上に印象的なのは、決して特別な存在ではなくなっていることです。

たとえば、薄いピンク色のパッケージデザインが目立つ「La Vie」。「植物から愛と共に」 「私たちに、地球にそしてもちろん友人(豚)にとって最善」という微笑ましいキャッチコピーが記され、豚のイラストともにユーモアのある、軽やかな印象です。ピンクのブランドカラーだけでなく、愛らしい「La Vie」というネーミングやチャーミングなイラスト、中身の商品が見えることでの安心感など、売り場でも目立つ秀逸なパッケージデザインです。

一方、「HappyVore」は、商品そのものと原材料を正面から見せるパッケージデザイン。ソーセージやナゲット、シャルキュトリー風の商品まで揃い、食卓での使い道がすぐに想像できます。意外なのは、環境配慮イメージを前面に出したグリーンや白基調のデザインが、思ったほど多くないことです。完成した料理の写真や、調理後のイメージを大きく見せるパッケージが主流で、ハンバーガーやミートボール、トマトソース煮込みなど「これは何の代替か」ではなく、「どう食べるか」を迷わせない構成になっています。 

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「HappyVore」は、商品そのものと原材料を正面から見せるパッケージデザイン。

コピーも興味深い内容です。「燻製」「カリッ!とした食感」といった、肉や肉加工品に使われてきた言葉が自然に使われています。「焼くだけ」「そのまま食べられる」「ラップやファヒータに最適」など。プラントミートは、理念よりも先に、使い勝手のよさが全面的に語られています。

私たちは実際に、プラントミートを調理してみました。今回使用するのは、ネスレ社のブランド「Garden Gourmet」の”Le Gourmand”というハンバーグ。大豆と胡椒、パセリが入っていると書かれています。

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ネスレ社のブランド「Garden Gourmet」の”Le Gourmand”というハンバーグ。大豆と胡椒、パセリが入っている。

早速、ハンバーガーをつくってみました。パッケージの裏面には、調理方法が書かれてあり、オーブンなら180℃で8~10分、熱したフライパンなら少量の油で中火で3~4分加熱します。表示通りにフライパンで焼くと、表面はきれいに色づき、スパイスの香りが立ち上がります。この段階で肉でないことを意識することは、ほとんどありません。軽くトーストしたバンズに野菜と一緒に挟み、いつものハンバーガーとして皿にのせます。食べてみると、ハーブとスパイスが効いていて、想像以上に軽やかな味わいです。

もちろん、肉のハンバーグのようなジューシーさとは異なりますが、噛み応えがあり、食後の満足感も十分に残ります。印象的だったのは、初めてプラントミートを食べた子どもたちの反応です。特別な説明をしなくても、自然と受け入れていました。「また食べたい!」という声は、この商品のおいしさを物語っています。

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”Le Gourmand”というハンバーグ。オーブンなら180℃で8~10分、熱したフライパンなら少量の油で中火で3~4分加熱。調理方法はとても簡単。子どもたちにも大好評だった。手前がビーフ100%、奥がプラントミート(写真左)。

プラントミートは、すでに外食シーンにも入り込んでいます。「La Vie」は、フランスのBurger KingやKFCでは、植物由来のベーコンやチキン代替メニューが提供され、特別なメニューというより、選択肢のひとつとして並んでいます。また、スペイン発の「Heura」は、黄色いパッケージと分かりやすいメッセージで、フランスの売り場でも存在感を放っています。

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スペイン発の「Heura」。店頭でのインパクトが強いデザイン。特においしさが全面に強調し、環境や健康などの価値訴求は緩やかに表現されている。

24年春には、複数のプラントミート企業が連合を組むという動きもありました。その背景には、実はプラントベース製品の名称をめぐる制度上の問題があります。このように店頭でブランド提供価値を瞬時に伝えるためには、ネーミングはとても重要です。競合関係にある各々のブランドが共同で声を上げ、広告を展開。結果としてネーミング規制の撤回に至りました。4社のブランドカラーとメッセージが全面に押し出される広告だったのも印象的です。まさに、市場が成熟し、社会との関係を再定義しはじめた兆しとも言えます。

フランスでは、完全なベジタリアンは多くありません。伝統料理には肉料理が多いのはご存知のとおりですが、肉を控える日や魚を選ぶ日もあり、その日の気分や体調で食卓は変わります。最優先は「おいしいものを選ぶ」という感覚。だからこそ、声高に環境を訴えなくてもいいということになるのです。カルボナーラのベーコン、キッシュ、ガレットの具材など、いつもの家庭料理に、無理なく入り込む。置き換えを目的にせず、我慢を強いることもなく、ただ、おいしい選択肢としてそこにあることが大切なのです。

フランスで広がるプラントミートは、思想より先に、おいしさと日常のリズムに馴染んでいます。その控えめでユーモアのあるチャーミングな存在感が、結果として家族の健康や地球環境へとつながっています。環境よりも先に、おいしさと楽しさ。その独特な優先順位の付け方が定着を生んでいるのかもしれません。ポジティブな課題解決をするために、楽しさや愛らしさなどの世界観を、私たち日本人の暮らしの中にもっと取り入れるべきだと思うのです。

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2024年4月21日付のリベラシオン紙の一面広告。(写真:Agence Fantastic)
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4社のプラントミートの企業がネーミングの規制に反対したメトロ広告。複数のプラントミート企業が業界全体で連合を組み、キャンペーンを展開した。4社のブランドカラーとメッセージが全面に押し出される広告で印象的。メトロ内広告同様、新聞広告も出し、消費者に大きなアピールをして話題に。(写真:Agence Fantastic)

細谷正人

ブランディング・ディレクター

NTT、米国系ブランドコンサルティング会社を経て、2008年にバニスター株式会社を設立。同社代表取締役。P&Gや大塚製薬、サイバーエージェント、ワコールなど国内外50社を超える企業や商品のブランド戦略とデザイン、人財育成まで包括的なブランド構築を行う。主な著書に『ブランドストーリーは原風景からつくる』、『Brand STORY Design ブランドストーリーの創り方』(いずれも日経BP)。法政大学大学院デザイン工学研究科兼任講師。

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細谷正人

ブランディング・ディレクター

NTT、米国系ブランドコンサルティング会社を経て、2008年にバニスター株式会社を設立。同社代表取締役。P&Gや大塚製薬、サイバーエージェント、ワコールなど国内外50社を超える企業や商品のブランド戦略とデザイン、人財育成まで包括的なブランド構築を行う。主な著書に『ブランドストーリーは原風景からつくる』、『Brand STORY Design ブランドストーリーの創り方』(いずれも日経BP)。法政大学大学院デザイン工学研究科兼任講師。

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