南仏のデザインフェスで脚光を浴びた、「自然」と「人工」の関係性を問う視点【建築家/デザイナー、トーマス・タカダ】

  • 写真:新村真理
  • 文:長谷川香苗
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トーマス・タカダ●1993年、静岡県生まれ。パリのベルヴィル国立建築学校を卒業後、石上純也建築設計事務所でインターンを経験。「デザイン パレード トゥーロン 2025」で、グランプリとビジュアル・マーチャンダイジング賞をダブル受賞して話題を集める。

落ち葉や枝木などの拾い集めた〝自然〟を用いて、椅子やベッド、照明器具をつくるフランス人建築家のトーマス・タカダ。2025年夏に南フランスで開催されたデザインフェスティバル「デザイン パレード トゥーロン」で作品を発表し、スポンサーのシャネルとヴァン クリーフ&アーペルからアワードを受賞した。

タカダはフェスティバル開催地を取り囲む森や丘の小道に分け入り、そこから枯れた花の茎や、山火事によって炭化したコルク樫の樹皮、落ち葉、石を拾い集め、それらを工業的な素材であるスチールワイヤーと組み合わせてベッドやテーブル、椅子、床をつくり、室内空間を生み出した。手近にある材料を活かした家具たちは、原始的でもあり、牧歌的でメルヘンを感じさせる。過度に加工することなく純度の高いものづくりをしたいという、タカダの想いが込められている。

「現代社会で身のまわりにある建築や家具は、セメントやプラスチックといった複雑な化合素材でできています。こうした化合物はどのような原料からできているのか、あるいは、どのようなつくり方なのか、知る機会はあまりありません。高度に複雑化したこの時代において、身近な素材を使い、自分の目の行き届く範囲で作品をつくりたかったのです」

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シャネルのメティエダールを紹介する展覧会「la Galerie du 19M Tokyo」のパリ凱旋展で展示する、金細工工房ゴッサンスとの共作のためのスケッチ画。

日本姓であるが、日本語は話さない。静岡県で生まれ、3歳の時に一家でフランスに渡る。その後は欧米を行ったり来たりするなかで、多様な文化に身を置いてきた。父が日本人、母がフランス人のタカダは、アイデンティティがゆれ動く環境で育った。

「アメリカで暮らしていた時は、自分はフランス人か日本人に近いと思い、フランスで長く暮らしていると、やはりフランス人とは違うと感じる。日本を訪れても、日本人のような気はしない。自分は一体何者なのか。確かなアイデンティティを持てずに育ちました」

グローバル化するハイブリッド社会の只中にいる彼は、それ故にピュアで〝素〟のまま、ものづくりを追求するのかもしれない。

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パリ北東部にある住まい兼アトリエ。ソファの脇にあるのは、愛猫の遊び場としてつくった家具。タカダは棚としても利用している。

そんなタカダが計り知れないほど影響を受けているというのが、建築家の石上純也だ。19年、パリのベルヴィル国立建築学校の院生であった26歳のタカダは、カルティエ現代美術財団で開催されていた石上の個展を訪れ、衝撃を受けたという。

「ヨーロッパにおいて建築は、内と外を明確に分けるヒエラルキー構造をもっています。一方で伊東豊雄さんをはじめ、SANAA、そして石上純也さんの建築は、周囲の環境と連続するかのような空間をつくり出している。風景が建築となり、そして、その逆もまた然りなのです」

その後、切望した石上の設計事務所でのインターンシップが実現。わずか3カ月間だが、彼にとって考えをゆるがす経験となった。建築や製品づくりで用いられる1ミリの誤差もない精緻な工業素材と、人間がコントロールできないところで変容する木々や朽ちていく草花の生の姿を、対等な素材として組み合わせるタカダの作品からは、コンクリートなどの人工物と自然を同化させる石上からの影響が感じられる。

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自宅近くのビュット・ショーモン公園で拾い集めたカエデの種子にあたる翼果を、約400枚重ねたランプシェード。時とともに朽ちていく種子を、何億年もの時が生み出した花崗岩が支えている。パリのボン・マルシェ百貨店で発表予定。

「人工物と自然は切り離された存在ではなく、相互扶助の関係にあることを探りたいのです」

スチールワイヤーで制作したフレームにさまざまな樹種の落ち葉を敷き詰めて、枝木をベッドポストにしたベッドは、ワイヤーと植物のどちらが欠けても成り立たない。繊細なワイヤーの椅子は、座面も背もたれもすべて拾い集めた木の葉でできているから、時とともに朽ち、形状が崩れていく。

「これらの家具は実用的ではありませんが、人工物と自然が一体となって世界を形成していることのメタファーとして見せたかった」

ブレを排除した規格製品と、ゆらぐ自然とのテンションが生む美。画一化するいまの社会に必要な存在かもしれない。

PICK UP

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「La Villa des échos」 南仏の街トゥーロンで発表した、室内空間の提案。会場周辺に自生する枝木や木の葉を集め、家具を制作した。季節ごとの地域の生態系を映し出し、自然と呼応する。© Luc Bertrand and the Villa Noailles

PERSONAL QUESTIONS

よく見るYouTubeチャンネルは?

「Primitive Technology」というチャンネルが好きです。オーストラリアの自然の中で、現代的な道具や素材を使わず、身のまわりにあるものだけで道具や小屋をつくっています。

毎日欠かさずに行っていることは?

マテ茶を飲んでいます。健康にとてもよいと聞いていますが、それだけでなく、不思議とエネルギーを与えてくれて、不安な気持ちを和らげてくれる気がします。

最近、気になったニュースは?

気候変動に関するニュースを見ると、まるで現代社会が抱える問題の深淵をのぞくような気分になりますが、自分の仕事に対して誠実に、そして作品について考える時間になります。

いちばん感動した風景は?

最も心を動かされたのは、コルシカ島にあるヴィザヴォナの森です。コルシカマツとブナの森で、祖母との思い出や、幼少の頃に苔むした岩や小川を冒険した記憶が詰まっています。