【Penが選ぶ今月の音楽】T字路s『マジック タイム』 ルーツ音楽への愛が見える、 多彩な楽器によるアレンジ

  • 文:加藤一陽(編集者/ライター)
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【Penが選んだ、今月の音楽】
『マジック タイム』

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伊東妙子と篠田智仁によるギターボーカルとベースのデュオ。2010年に結成。17年に初のオリジナルアルバム『T字路s』をリリース。25年に「美しき人/マイ・ウェイ」でメジャーデビュー。同年 6月に公開した「美しき人」のMVには、盟友であるオズワルドのふたりが出演し話題に。photo:Shunya Arai

2025年4月に結成15周年にしてメジャーデビューを果たし、ファンを驚かせたT字路s(ティージロス)が、メジャーファーストアルバムを完成させた。オリジナルアルバムとしては5年ぶりとなる本作は、日本を代表するギタリストの佐橋佳幸をサウンドプロデューサーとして迎え、全編バンドアレンジによる12曲を収録した意欲作。バンドメンバーはギターの佐橋のほか、ドラムの坂田学と古田たかし、鍵盤の斎藤有太やDr.kyOn(ドクターキョン)など軒並み手練れで、ニューオリンズ風味の「あたしのトラック」やケルティック「燃やせ燃やせよ」、ブギナンバー「ブギーマンブギ」、ホーンが印象的なR&B「明日の足跡」など、多彩な楽器を用いたアレンジによりルーツ音楽への愛情が立体的に表現される。そもそものT字路sの特徴と言えば、シンプルなオケの中で力強く響く伊東妙子の歌。それがバンドセットの中でも魅力はそのままに、かつ、ふたりがイメージしている音楽性がより直接的に伝わるかたちで成立しているのは佐橋の手腕によるものだろう。

そして、やはり注目はインディー時代からの代表曲「泪橋」がバンドバージョンで収録されている点。原曲の魅力である“歌と言葉の生々しさ”をオルタナティブロックのような分厚いサウンドにのせるアレンジと演奏は圧巻で、従来のファンを驚かせることはあれど、決してがっかりさせることはないと言い切れる素晴らしい出来栄えだ。

確かなキャリアを重ね、映画やCMに楽曲を提供するまでに活躍しているふたりが、このタイミングであえてメジャーを選んだ理由。それを探りながら本作を聴いていると、T字路sが持つ音楽性と“メジャーだからこそできること”がうまく結びついた、とても幸福なメジャー進出のかたちを見た気持ちになる。

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