【ロールス・ロイスのEVクーペ】東京深夜零時零分に発進せよ! “永遠”を伴い浮遊する、ブラック・バッジ・スペクター 第236回東京車日記

  • 写真&文:青木雄介
Share:
aFB-1.jpg

ブランド史上最高のパワーを発揮するファストバックEVクーペ。

ロールス・ロイス初となるEVクーペ、「スペクター」はさながら移動する再生カプセルだった。アクセルを踏み込めば、ゼロから始まりゼロへと回帰する。そのサイクルはまるで惑星の一生を早送りで体験しているように思えた。

“もう一人の自分”が目を覚ます、ブラック・バッジという選択

aFB-2-.jpg
ブラック・バッジらしい煌びやかでダークな内装アクセントが夜に映える。 

そんな「スペクター」のブラック・バッジが早くも登場した。ロールス・ロイスの「オルター・エゴ(もう一人の自分)」を表現するこのシリーズは顧客層を若返らせ、モデルによって高い販売比率を誇る。その成功を背景にEVクーペを導入したことで、より深い概念を選び取っていると感じた。

特に象徴的なのが、インフィニティ・モードだ。速度や鋭さを誇示するのではなく、言葉通り“永遠”という感覚をドライバーに味わわせようとする設計なんだな。インフィニティ・モードを作動すると、659馬力の最高出力が解放され、よりダイレクトなスロットル・レスポンスを実現する。

aFB-3.jpg

インテリアにはブラックとピオニー・ピンク・レザーの組み合わせを採用。

駆動音がSF映画の効果音めいた透明さを帯び、無重力を意図しただろう走行感覚に陶然とさせられる。このインフィニティ・モードと併せて起動できるスピリテッド・モードは、見どころのひとつだ。ブレーキとアクセルを同時に踏み込むと振動とともに作動し、次第にノーズが上がり、リアが沈み込んでいく。エネルギーがチャージされていくさまが視覚によって数値的に表現されていて、まるで発射間近のデス・スターのスーパーレーザー砲みたいだ。

ブレーキを離すとなめらかで強い加速が立ち上がるが、タイヤが空転することも、首をもっていかれるような衝撃もない。この機能は必要なのだろうか? という疑念にとらわれもするが、その問いは無粋というもの。真夜中の交差点でゼロヨン対決を申し込まれることだってあるかもしれないし、オーナーが若い成功者なら受けて立ちたくなるかもしれない(笑)

「これぞロールス・ロイス」、夜の街に溶け込む静けさと光

aFB-4-.jpg
車体制御もブラック・バッジ専用に調整し、運転の応答性と安定性を両立する。

とはいえ、このクルマの本領はこうした遊び心の先にある。ブラック・バッジ専用に仕込まれた外装のダーク・クローム、影色のスピリット・オブ・エクスタシー、そしてドアパネルやキャビンに点在するLEDの光の渦は、夜にこそ完成形を見せる。闇の中で光が歩幅を揃えるように、夜の街を背景として受け入れているかのような“溶け込み方”を示す。

走り出すと、密度の高い静粛性が車内を支配する。遠くのバイパスから聞こえてくるような他車の音だけが、風景の背景音としてかすかに届く。通常のブラック・バッジならわずかに感じる路面からの粒立ちも、このEVクーペにはない。静けさの一枚布が、その名の通り、影のように走り続けているようで、「これぞロールス・ロイス」と息をのむ。

aFB-5.jpg

スピリット・オブ・エクスタシー。専用色「ヴェイパー・ヴァイオレット」とともにブラック・バッジ専用の加飾が与えられている。

信号で停まると、深い水槽の底にいるような感覚に包まれ、青に変わるとインフィニティ・モードの淡い駆動音が闇をゆっくりと押し分けていく。ダーク・クロームの輝きは繁華街のネオンに溶け込み、気がつくと話題のクラブを訪れる時のような高揚感に、胸を高鳴らせている。

結局のところ「ブラック・バッジ・スペクター」が示す“永遠”とは、走行だけではない。夜という空間に息づきなめらかに横断する、ブランドが本来持つ時を超えた贅沢のことなのだ。

ロールス・ロイス ブラック・バッジ・スペクター

全長×全幅×全高:5,490×2,015×1,575㎜
最高出力:659hp
最大トルク:1,075Nm
航続走行距離:496-530km(WLTPモード)
駆動方式:AWD(四輪駆動)
車両価格:¥56,140,000〜

ロールス・ロイス・モーター・カーズ コミュニケーションセンター
www.rolls-roycemotorcars.com