フェラーリはどうやってクルマのデザインを決めているのか。新型車「アマルフィ」のテストドライブのタイミングで、デザイナーに背景を尋ねた。

なぜ、そんな質問を私はしたのか。理由は、いわゆるデザインランゲージという、ボディデザインにおけるポリシーのようなものが、他のメーカーより希薄に感じられるからだ。
いや、希薄ではない。というのが、フェラーリのデザイナーの主張だった。そこが面白い。
「新型車で同じデザインテーマを繰り返すと、前のモデルに乗っていた人が”型遅れ感”にとらわれるでしょう。それは不公平だと思うのです」
アマルフィのテストドライブが実施された、ポルトガル(ほぼ)南端のリゾート、ファロで出会ったフェラーリのデザイナーは、そう説明する。


たしかに、そう言われて思い当たることがある。ひとつは、フェラーリはモデル名を繰り返さないこと。
直近の例でいうと、もっともパワフルなフラッグシップ「SF90ストラダーレ」の後継は「849テスタロッサ」だ。
シャシーの一部を共用し、どちらもプラグインハイブリッドと全輪駆動システムの組合せだが、SF90ストラダーレのデザイン要素を、849テスタロッサに見出すことはむずかしい。

2024年に「12チリンドリ」が発表された際、ボディ後端の電動リアスポイラーが一体型でなく、左右分割式になっていたのがユニークな手法だった。

この後、発表される新型車にも、このスポイラーのアイデアは継続使用されますか、と本社での発表会の際、担当デザイナーに尋ねたところ、「ありえません」ときっぱり。
量産といっても、ごく少数しかつくられないフェラーリのスポーツカーだけに、希少性も顧客にとって大きな価値になることを、よく理解しているのだ。
かつて、創業者のエンツォ・フェラーリは「日曜にレースで勝つと月曜日にクルマが売れる」と言ったとか。

レースで走るのはフォーミュラマシンだったりスポーツプロトタイプだったりで、市販モデルとは違う。
それでも、モータースポーツでの勝利でブランドイメージは強固になることを、創業者は誰よりもよく理解していたのだろう。
現在のフェラーリが、たとえばF1と市販スポーツモデルの関係をどう捉えているか。その質問が出来る相手をフェラーリの中に見つけるのは難しい。
おそらく、フェラーリのジョン・エルカン会長なら答えてくれるかもしれないが、私も、この人に会ったことは数回しかなく、なかなか機会がない。

25年に発表されたアマルフィは、しかし、ここで述べてきたフェラーリのプロダクトポリシーとは少し異なる。従来の「ローマ」とのつながりが強い。多くのパーツを共用するし、スタイリングだって、プロポーションや面のつくり方など、かなり近い。
私は実は、それがうれしかったりする。ローマには、鬼面人を驚かすようなところがない。市場での競合ととにかく視覚的差異をもたせるのではなく、ピュアな審美性が特徴なのだ。

かつて19年にローマにおいて、「ローマ」というクルマが発表された際、私は「いいデザインですね」とデザインを統括しているフラビオ・マンツォーニ氏に感想を述べたことがある。
「自分たちでも自信作で、フェンダーの面の美しさなど自慢したいところがいろいろあります」

マンツォーニ氏はそう言い、フェンダーには出来れば「シールド」(楯型のエンブレム)をつけたくないほどです、とのことだった。

ファロでテストドライブする機会のあったアマルフィも、太陽の光で見ると、つくり込まれたカーブのボディ面が、美しい印影を生み出していた。
たしかにシールドがなくても、端正な面構成は、ローマからアマルフィへと受け継がれた、このフェラーリのスポーツカーの個性だ。
スポーツカーのデザインの特徴はなにか。年を追うごとに強烈度が増していく傾向をとるメーカーも少なくない。
そこにあって、アマルフィはエレガントさを追求している。

パワーアップしたV8エンジン、ブレーキ・バイ・ワイヤシステム、可変リアウイング、新しくなったHMI(ヒューマンマシンインターフェイス)など、ローマからしっかり性能アップもしている。
スポーツカーは、鬼面人を驚かす存在ではない。乗る人のキャラクターを反映、あるいは強調してくれ、そして生活を楽しくしてくれる。
そこがよくわかっているモデルなのだと、私は思った。









