【『なぜ人は締め切りを守れないのか』】締め切りの哲学から、 “生”の意味が見えてくる

  • 文:辻山良雄(書店「Title」店主)
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【Penが選んだ、今月の読むべき1冊】
『なぜ人は締め切りを守れないのか』

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難波優輝 著 堀之内出版 ¥1,980 

身に覚えのあるタイトルに、ドキリとした人もいるだろう。しかし本書は、締め切りを守るためのマニュアルではない。目指すのはそのもっと先——「締め切り」の概念を哲学的に考えることで、私たちが普段どのような時間を生きているのか明らかにするとともに、有意義な時間を回復させ、いかにそれを生きるか指南する、ウェルビーイングの本なのだ。

この本の白眉は、ともすれば客観的で、動かしがたい権力のように思える「時間」を分解し、実はそれが多様なグラデーションを含んだ柔軟なものであることを示すわかりやすい書きぶりにある。難波は多くの文献を紐解き、仕事のプロジェクトや遊びの時間なども例に取りながら、時間の諸相を、順を追って明らかにする。私たちが生きているのは、その中に複数の時間が流れている、弾力性のある時間なのだ。

しかし、もとあった伸び縮みする時間に、突如「締め切り」という時計が、暴力的に埋め込まれる。そうして押し付けられた「わるい時間」に、個人の生きる時間を合わせようとするから、そこには無理が生じるのだ。結果として締め切りは、守られることがなくなるだろう。

それでも考えさせられるのは、締め切りの時間がなければ、私たちの人生も、よりよいものにはならないということだ。締め切りのない人生は、不死の人生同様に、生きる動機づけが希薄になる。締め切りというデッドラインがあるからこそ、わたしたちは活力ある「生」を過ごし、人生に意義を見出すことができるのだ。

必要なのは、時間を見る眼を養い、生きたい時間を過ごせるよう自分で時間をデザインすること。それを理論的に支え、最初の一歩を踏み出す勇気を与えてくれる好著である。