つくり手の個人史も投影された、 ホロコーストを巡る物語『旅の終わりのたからもの』ほか【今月の映画3選】

  • 文:児玉美月(映画文筆家)
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今月のおすすめ映画①『旅の終わりのたからもの』
つくり手の個人史も投影された、ホロコーストを巡る物語

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ルーシーを演じたのは、俳優業だけではなくテレビシリーズ『GIRLS/ガールズ』で高く評価された監督・脚本家でもあるレナ・ダナム。その父親エデク役には、英国の国民的俳優として知られるスティーヴン・フライ。人気俳優同士の息の合った演技のかけ合いにも注目してほしい。© 2024 SEVEN ELEPHANTS, KINGS&QUEENS FILMPRODUKTION, HAÏKU FILMS

舞台は1991年、ポーランドのワルシャワ。アメリカでジャーナリストとして活躍するルーシーとユダヤ人としてホロコーストを生き抜いた父親のエデクが、空港で落ち合う。エデクがトラウマ体験を理由に50年もの間帰郷していなかったポーランドへと、家族のルーツをたどる旅に出るためだ。ちょうどソ連が崩壊したばかりのこの時代、世界各地のユダヤ人が故郷に戻ることが可能になった。ルーシーとエデクは母親を1年前に亡くしたばかりで、まだその悲しみからも立ち直れずにいた。過去を語りたがらないエデクにルーシーは不満を隠せず、会って早々ケンカしてばかりの父と娘の旅は前途多難で……。

原作はオーストラリアの著名な作家リリー・ブレットによる『トゥー・メニー・メン』。ブレットには、自身もホロコーストを生き抜いた父親がいる。監督を務めたドイツ人であるユリア・フォン・ハインツもまた、ホロコーストの生存者の子どもである“第二世代”の親を持つ。作中、キャリーケースにナチスに関する文献を詰め込み、家族を襲った悲劇を必死に理解しようとするルーシーの姿には、つくり手たちの生の経験と感情が投影されている。『旅の終わりのたからもの』では、そうして個人史と公的な歴史が交わっていく。

ホロコーストが題材とされているものの、本作は決して深刻なだけではなく、コミカルな場面も多い。エデクとルーシーが滞在するホテルでの火災報知機の誤作動による騒動のお詫びとしてウオツカがふるまわれる賑やかなシーンなどはその一例だ。父と娘のなかなか噛み合わないチグハグなやり取りもどこかおかしい。家族とはいえ、互いのすべてを知っているわけではない。知られざる傷に触れた時、彼らの関係に変化がもたらされる。旅の終わりにふたりが見つけた“たからもの”とは──。

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『旅の終わりのたからもの』

監督・脚本/ユリア・フォン・ハインツ
出演/レナ・ダナム、スティーヴン・フライほか
2024年 ドイツ・フランス映画 1時間52分 2026/1/16よりキノシネマ新宿ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画②『恋愛裁判』
現代日本を鋭く批評!“アイドルの恋愛は罪なのか”

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© 2025「恋愛裁判」製作委員会

人気急上昇中のアイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」でセンターを務める真衣は、かつての同級生と偶然再会し、恋に落ちる。普遍的な若き恋と逃亡、そしてそこに待ち受ける多大な代償。追い詰められた彼女の選択とは? “アイドルの恋愛は罪なのか”という難しい問いに立脚した、憲法に基づく人権問題を巡る法廷劇であり、文面よりも空気を重んじる懲罰的な現代日本の社会批評でもある。“推し”の文化に鋭く切り込む一作に注目。

『恋愛裁判』

監督/深田晃司
出演/齊藤京子、倉 悠貴ほか
2025年 日本映画 2時間4分 2026/1/23よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります。

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今月のおすすめ映画③『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』
打ち明け話から急展開、目の離せない会話劇

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© The IDEAfirst Company, Octobertrain Films, Quantum Films

コロナ禍のマニラ、大学教授であるエリクソンは、久しぶりに教え子の大学生ランスロットと行きつけのレストランで待ち合わせをしていた。感染症対策のため滞在できるのはわずか90分。楽しい食事になるはずが、そこでエリクソンはランスロットから驚くべき真実を打ち明けられることになる。そして、ワンシチュエーションによる会話劇は思わぬ方向へと観客を巻き込む。文学談義に興じる彼らは、創作における虚構性と欺瞞を探究していく。

『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』

監督・脚本/ジュン・ロブレス・ラナ
出演/ロムニック・サルメンタ、イライジャ・カンラス
2022年 フィリピン映画 1時間31分 2026/1/17よりシアター・イメージフォーラムほかにて公開
※公開時期・劇場などが変更される可能性があります