「大人の名品図鑑」ルパン三世編 #4
日本でいちばん有名な盗賊といえば、「ルパン三世」をおいてほかにいない。神出鬼没にして変幻自在の大泥棒。相棒の次元大介や、謎めいた美女・峰不二子らとともに、世界中の宝物を鮮やかに盗み出してきた。その一方で、どこか憎めない愛嬌を備えていることも彼らが長く愛されてきた理由だろう。今回の名品図鑑は、そんな空想のキャラクターたちが愛用した名品に光を当てる、本連載でもひときわ異色のテーマでお届けする。
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世界を股にかける追跡者、“とっつぁん”とは?
『ルパン三世』のような冒険活劇において、敵役の存在は欠かせない。ルパン三世の逮捕にすべてを捧げる男、それが銭形警部である。岡っ引き・銭形平次の子孫で、本名は銭形幸一。ルパンからは親しみを込めて「とっつぁん」と呼ばれている。
『ルパン三世カルトブック』(双葉文庫)には、「警視庁勤務で、現在はルパン三世専属捜査官としてICPOに出向している」と記されている。ICPOとは国際刑事警察機構のこと。世界中でルパン三世を追い続けられる理由が、ここにある。また『ルパン三世研究報告書』(双葉社)では、「007もそこで習練をつんだという某諜報機関に長年留学」と、その経歴が紹介されている。コミカルな失敗も多いが、実は有能で、射撃の腕も相当なものだ。
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犯人を追い続ける、銭形警部のトレードマーク
そんな銭形警部のトレードマークといえば、やはりトレンチコートである。前述の『ルパン三世カルトブック』のファッションチェックには、「トレンチコート→バーバリー」との記述がある。本連載第1回で紹介した『ルパン三世名場面集 PARTⅤ』にも同様の記載が見られるが、ウェブサイト「L3雑録」では、「ファンにはお馴染みの話ではあるものの、本編に反映されていない本書のみの記述」と指摘されている。少なくとも映像作品の中で、銭形警部が着用するトレンチコートのブランド名が明確に語られた例は確認できていない。ただし、どの作品においても、彼が常にトレンチコートを身に纏っていることは紛れもない事実だ。
トレンチコートの歴史やディテールについては、2021年4月公開の本連載で詳しく触れているが、もともとは軍用として開発された、タフで機能的なアウターである。犯人を追い続ける刑事や探偵、あるいはニヒルな悪役の装いとして、これほどふさわしいコートはないだろう。
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老舗の系譜が生んだ、正統派トレンチコート
今回取り上げるのは、英国の老舗ダックスと、日本のサイがコラボレーションし、2025年秋冬にリリースしたトレンチコートだ。ダックスは1894年創業。16歳のシメオン・シンプソンがロンドンで開いた小さなビスポークテーラーを起点とするブランドである。20世紀に入ると、世界で初めてスーツの仕立てを機械化し、高品質な既製服によって評価を高めた。1934年には創業者の次男、アレクサンダー・シンプソンが世界初のベルトレス・スラックスを考案。「Daddy’s Slacks」を略した「DAKS」の名で発表し、大ヒットを記録する。以来、英国王室御用達の称号を60年にわたり保持してきた、まさに英国を代表する老舗ブランドである。
一方のサイは2000年にスタートしたブランドで、デザイナー日高久代とパターンカッター宮原秀晃によって設立された。名称はテーラー用語の「カマ(袖ぐり)」に由来する。英国テーラリングを基盤とした精緻なパターンメイキングと立体裁断技術で知られ、とりわけテーラードやコートの美しい仕立てには定評がある。
今回のコラボレーションは、両者に共通するクラフツマンシップとタイムレスなデザイン哲学が見事に融合したものだ。素材選定から縫製に至るまで、すべて日本国内で行われ、熟練職人の手作業によって仕立てられている。重ね着を想定した、ゆとりあるシルエットに加え、動きやすさを考慮した一枚袖のラグランスリーブを採用。機能性と品格を兼ね備えた、正統派トレンチコートに仕上がっている。
こんな一着を纏えば、銭形警部にとって、ルパン三世を追い続ける長い旅路も、ほんの少しだけ楽になるかもしれない。
今回取り上げた4人は、いずれも架空の人物である。しかし、彼らが選んだ名品はすべて実在し、しかも一流だ。『ルパン三世』の世界観は、キャラクターの魅力だけでなく、その背後にある“本物の名品”によって、半世紀以上にわたり支えられてきたのである。
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