次元大介の美学は、帽子にある。ボルサリーノが定義した、無二な相棒の不変たるスタイル

  • 文:小暮昌弘(LOST & FOUND)
  • 写真:宇田川 淳
  • スタイリング:井藤成一
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モデル名は「アレッサンドリア ラージブリム」。イタリア製のラビットファーフェルトを使用した「アレッサンドリア」シリーズの定番モデル。約7cmのワイドブリムにリボンをあしらったクラシックな佇まいで、クラウンの高さは約10.5cm。¥71,500/ボルサリーノ

「大人の名品図鑑」ルパン三世編 #3

日本でいちばん有名な盗賊といえば、「ルパン三世」をおいてほかにいない。神出鬼没にして変幻自在の大泥棒。相棒の次元大介や、謎めいた美女・峰不二子らとともに、世界中の宝物を鮮やかに盗み出してきた。その一方で、どこか憎めない愛嬌を備えていることも、彼らが長く愛されてきた理由だろう。今回の名品図鑑は、そんな空想のキャラクターたちが愛用した名品に光を当てる、本連載でもひときわ異色のテーマでお届けする。

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実写化で再確認される、次元大介という男

『ルパン三世』の実写版はこれまでに何作か制作されてきたが、2014年に小栗旬主演で公開された映画『ルパン三世』に続き、2023年にはスピンオフ作品『次元大介』がPrime Videoで配信された。いずれの作品でも次元大介を演じているのは玉山鉄二である。配信時期にはPen PLUSで「ルパン三世の無二の相棒 次元大介の肖像」と題したムックも制作された。

そのムックの冒頭では、次元大介という人物像が、次のように紹介されている。

「細身のスーツにつば広の中折れ帽を合わせ、携えるホルスターには愛銃のSW コンバット・マグナム。そして、くわえ煙草で煙をくゆらせながら、ニヒルな笑みを浮かべる———その男の名は、次元大介」

原作者モンキー・パンチは、次元大介のモデルについて、映画『荒野の七人』(1960年)でジェームズ・コバーンが演じたガンマン、ブリットであると語っている。寡黙で、ナイフ投げの名手。カウボーイハットで顔を隠したまま昼寝をしていても敵を倒してしまう男。その佇まいは、次元大介のトレードマークであるつば広の中折れ帽にも、確かに通じるものがある。

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帽子の内側には、伝統あるボルサリーノのロゴマークがプリントされている。イタリアの自社工場で、50以上もの工程を経て手づくりされていることの証でもある。

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生き抜くために被る、ボルサリーノの中折れ帽

前述のムックには、次元が「イタリアのボルサリーノ製の中折れ帽を愛用している」と明記されている。さらにTV版2ndシリーズ第152話「次元と帽子と拳銃と」では、その帽子の詳細が明かされているとも記されている。サイズは58.25cm、つばの長さ8.6cm、厚さ1.5mm。素材はゾウアザラシのオス4歳のお腹の皮製とされ、帽子のつばを銃の照準の目安にしている描写もある。次元にとって、このつば広の帽子は単なるファッションではなく、生き抜くための“道具”なのである。

ボルサリーノは、ハットブランドの中でも屈指の名品として知られ、本連載では2022年の「ジャズの巨人編」でも紹介している。創業は1857年。北イタリアのアレッサンドリアで、ジョゼッペ・ボルサリーノが立ち上げた名門だ。1900年のパリ万国博覧会でグランプリを受賞し、その名声は世界へと広がった。映画『カサブランカ』(1942年)や『8 1/2』(1963年)など、数々の名作で主人公が着用したことでも知られ、1970年公開の映画『ボルサリーノ』では、ブランド名がそのままタイトルに。アラン・ドロンとジャン=ポール・ベルモンドが見せた小粋なハットスタイルは、いまなお語り草だ。

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光沢のあるグログランのリボンが、全体にエレガントな表情を添える。リボン留めにボルサリーノのロゴが控えめに刻印されている。

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帽子だけは変えない、次元スタイルの美学

今回紹介するのは、「アレッサンドリア ラージブリム」。ブランドの誕生地の名を冠したモデルである。上質なラビットファーフェルトを用いたワイドブリムが特徴で、クラウンの高さは約10.5cm。デイリーユースからドレスアップまで対応できる、ボルサリーノを代表する定番モデルのひとつだ。その堂々たる佇まいは、いかにも次元大介が愛用していそうな雰囲気が漂う。次元が愛用したアイテムとしては、ゼニスの腕時計もよく知られている。TV版1stシーズン第1話「ルパンは燃えているか……?!」に登場し、近年では「次元大介モデル」として2025年11月に4度目の復刻版も発売された。また『ルパン三世カルトブック』(双葉文庫)には、「スーツ、Yシャツ、ネクタイ→すべてVAN製品」と記されている。作画を見る限り、次元は常にボタンダウンシャツを着ているようにも見える。

一方で、映画『LUPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』(2014年)では、次元自身が「ジバンシィからフェンディといったブランドを着ている」と語るシーンもある。ジバンシィはオードリー・ヘップバーンの衣装を手掛けたことでも知られ、ジョン・ガリアーノ、アレキサンダー・マックイーンといった名だたるデザイナーが関わってきた。2024年からはサラ・バートンがクリエイティブ・ディレクターを務める。フェンディは1925年にローマで創業したラグジュアリーブランドで、2025年からはマリア・グラツィア・キウリがチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任している。

トラッドからラグジュアリーへと、次元大介のスーツスタイルは時代とともに変遷してきた。しかし帽子だけは、ボルサリーノと決めているのかもしれない。そこにこそ、次元大介という男の、揺るがぬ美学が宿っている。

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内側の裏地や、「スベリ」と呼ばれる汗止め部分には、イタリア製であることを示す刻印が。「スベリ」には本革を使用し、被り心地にも配慮されている。
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次元大介愛用品よりも、被りやすさを意識したボルサリーノの定番モデル。モデル名は「Q.S. 50grams(チンクァンタグラミ)」。つばの長さは約6cmで、素材はラビットファーフェルトを使用する。同ブランドの高級ライン「クアリタ・スーペリオーレ」と同等の素材を用いながら、厚みを抑えることで重さはわずか50g。裏地のない仕様で、丸めて持ち運んでも48時間以内ならばもとのかたちに戻る。デイリーユースや旅にも適している。¥82,500/ボルサリーノ

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中央帽子

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