「憧れは両津勘吉ですね。秋本治先生の漫画『こち亀』の両さんは商売も発明もなんでも自分でやっちゃう万能の天才で、同時に反骨精神も人情もあって。あれはたどり着けない領域の人物ですよ」
そう語るのは、新鋭映画監督の小島央大。彼の長編第二作『火の華』は2025年10月31日より渋谷ユーロスペースを皮切りに公開を迎え、観客の心を強くゆさぶり、劇場は異様な熱気に包まれている。南スーダンに派遣された元自衛官の壮絶な体験を描き出す本作は、日本映画ではほとんど扱われてこなかった「元自衛官のPTSD」というテーマに挑み、井筒和幸監督など先達からも惜しみない絶賛を受けた。
小島が一躍注目を浴びたのは、新藤兼人賞銀賞を受賞したデビュー作『JOINT』(2021年)。東京で蠢く半グレや暴力団の闇を徹底的にリサーチし、現代日本の裏社会の実相をリアルに抉り取った骨太の野心作だ。監督本人は、いたって穏やかで知的な雰囲気を纏う。そのギャップに驚かされるが、経歴もきわめてユニークだ。
「生まれは神戸ですが、3歳で渡米して10年ほどニューヨークのロウアー・イースト・サイドで暮らしました。アーティストが多い下町で、ヒッピーライクな親の子どもらが通う、自由な校風の小学校で過ごしました。その時の環境が、自分の人格形成にだいぶ影響を与えているかもしれません」
子どもの頃に熱中していたのは小説、ゲーム、スケートボード。中二で帰国したあと、高校からは音楽にのめり込みつつ、「模型づくりが好きという軽い理由」で東京大学工学部建築学科に進学した。在学中はMMTの通称で知られる、早稲田大学のインカレ軽音楽サークル「Modern Mu
sic Troop」に所属。やがて自ら率いるバンド、カラバカファンクラブのミュージックビデオ(以下MV)を撮った。ここで映像というジャンルに飛び込み、「あのビデオを撮った時が監督という立場を意識した最初でしたね」と小島は振り返る。
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映画を志したのは東大在学中の末期だ。アカデミー賞作品賞に輝く傑作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を観た際、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の「映画は建築と似ている」という言葉に刺激を受けたからだという。
「各セクションを監督が統括して、カオスの中からヴィジョンを生み出す。ものづくりの過程としては、映画と建築って共通点が多いんだなと気づきました」
同時期に小島が心酔した映画は、マイケル・マンの『ヒート』、アンドレイ・タルコフスキーの『鏡』『ストーカー』、テレンス・マリックの『ツリー・オブ・ライフ』、ウォン・カーウァイの『恋する惑星』『2046』等々。
大学卒業後は映像作家の山田智和のもとで一年半ほどMV制作のアシスタントを務める。山田が手掛けた米津玄師の「Lemon」MVの現場にも就いていたらしい。まもなく『JOINT』に着手しはじめ、映画監督に。最新作『火の華』では『JOINT』で出会った主演の山本一賢とともにオリジナル脚本を執筆し、音楽と編集も自らこなす。「なんでも自分でやっちゃう」という両津勘吉イズムは、映画という総合芸術の場で存分に活かされている。
2作の映画で小島が行ったのは、日本社会のタブーに踏み込むことだが、彼自身はケロッとした顔で「当たり前のこと」だと語る。
「たとえばマーティン・スコセッシだって、移民絡みの現代の裏面史をギャング映画に組み込むじゃないですか。日本は過敏に騒ぎ過ぎだなと思います」
若き鬼才の未来展望はいかに。
「ハリウッドへの興味は? なんてたまに訊かれるんですけど、日本で撮りたい題材がたくさんあるんですよ。まだこじ開けられていないテーマがあまりに多い。少なくとも30代は日本を舞台に駆け抜けたいですね」
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PICK UP
小島監督と『JOINT』の主演・山本一賢が再タッグを組み、自衛隊日報問題に着想を得た映画。花火と戦争を対比的なモチーフとし、平和の在り方や人間の本質を問いかける。K's cinemaなどで公開中。
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PERSONAL QUESTIONS
いまハマっていることは?
天体写真を撮ること。『火の華』で花火を撮った延長なんですが、夜空の星を撮影していると瞑想のように精神統一できる。宇宙の中に自分が存在していると実感できるんです。
煮詰まった時にやることは?
基本、自然に還ります。よく行くのは竹林。青山の梅窓院というお寺に小さな竹林があるんですよ。あと本当にしんどい時は、千疋屋の新鮮なフルーツジュースを飲むと復活します。
最近よく聴く音楽は?
アンビエント系が多いです。いまはアレクシ・ペララをよく聴いていて、少し前はフィリップ・グラス。あと全然関係ないけど、バンドではトゥール。MVも大好きなんですよ。
いま会いたい人は?
宮古島の有名なユタ(シャーマン)である根間ツル子さん。民俗学者の谷川健一さんの著作『神に追われて 沖縄の憑依民俗学』で紹介されているのを読んで、興味を持ちました。
いま注⽬したい各界のクリエイターたちを紹介。新たな時代を切り拓くクリエイションと、その背景を紐解く。
