【Penが選んだ、今月の音楽】
『近藤 譲 オーケストラ作品集「牧歌」』
2024年、作曲家としては数少ない文化功労者に選ばれた近藤譲は、名実ともに日本を代表する芸術家だ。1970年代から自身で名付けた「線の音楽」というコンセプトに沿って、現在78歳に至るまで決してブレることなく創作し続けてきた孤高の作曲家である。と同時に複数の大学で優秀な弟子を数多く輩出し、執筆や翻訳でもインパクトのある業績を残してきた。アメリカとヨーロッパの双方で実績が評価されている日本人の作曲家は故人を含めても決して多くないことを思えば、近藤がどれほど重要な存在なのかおわかりいただけるだろうか。
しかし近藤の音楽はキャッチーさとは無縁。むしろ音楽という現象が必然的に内包するambiguity(曖昧性)の問題に向き合ってつくられるのが面白い。音がデタラメに並んでいても、リスナー次第で聴こえ方がまるで変わることに注目し、あえて多様な聴き方ができるような音の並びを追求してきたのだ。結果として曖昧な音響からなにを見出すのか、聴き手自身の写し鏡となるような独自の音楽が生まれた。2023年のオーケストラ個展をライブ録音した本盤は、異なる時期に書かれたまったく異なるサウンドの曲が並び、近藤の音楽入門にうってつけだ。
比較的親しみやすいのは近作だろう。特に「ブレイス・オブ・シェイクス」は4分程度と短く、カウベルの響きに導かれ明確なクライマックスが生まれるため聴きやすい。これが前座だとすれば、本編は「パリンプセスト」で、じっとり薄暗い森の中をさまよいながら思索を重ねるような感覚がたまらない。クラリネットだけで演奏される1990年代の「フロンティア」は抽象的な電子音のよう! 80年代の「牧歌」では単純さと複雑さが両立した音響が続き、目眩のような錯覚をもたらす近藤ならではの傑作だ。
ピエール=アンドレ・ヴァラド(指揮)、読売日本交響楽団、国立音楽大学クラリネットアンサンブル コジマ録音 ALM-146 ¥3,300