【マイクラの世界が現実に】巨大なピクセルが積み重なる36階建て。シンガポールに出現した、ゲームのような超高層レジデンスの正体

  • 文:山川真智子
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シンガポール

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MVRDV Irwell Hill Residences © Finbarr Fallon

国土の小さいシンガポールには、たくさんの高層住宅が建てられてきた。現場での建設作業は密集した都市環境にしばしば混乱をもたらすが、近年は生産性を高めるため、あらかじめ工場で仕上げたモジュールを建設現場で組み立てる工法が積極的に取り入れられている。最近建てられた高級コンドミニアム「アーウェル・ヒル・レジデンス」もその一つだが、モジュール建築の短所を強みに変えた魅力あるデザインが高い評価を得ている。

箱を積み重ねた建物が、過密都市にメリット

「アーウェル・ヒル・レジデンス」は、シンガポールの中心部に建てられた2棟のタワーからなる36階建ての高級レジデンスだ。シンガポールを拠点とする ADDP アーキテクツによる PPVC 工法を採用し、オランダの建築家集団、MVRDV がデザイン面で協力した。PPVC 工法は、部屋をモジュール化して工場で事前に内装などを仕上げた後、現場で組み立てる建築手法だ。シンガポールのような過密都市では、現場作業は環境への負荷が大きい。しかしこの工法であれば、建設作業の厳しさ、建設作業員の数、建設期間を削減することができるため、シンガポールでは広く採用されているという。

さらに、輸送、機材の使用、現場作業を最小限に抑えることで廃棄物の削減と建設関連の炭素排出量の低減にもつながる。こうした利点から、シンガポールの建築建設省もこの工法における業界の能力を高めようと、制度整備に取り組んでいるという。

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MVRDV Irwell Hill Residences © Finbarr Fallon
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MVRDV Irwell Hill Residences © Finbarr Fallon

見た目の退屈さを克服!ピクセル化された外観

作業上のメリットが大きい PPVC 工法だが、建物の外観が反復的で単調になりがちというデメリットもある。そのため「アーウェル・ヒル・レジデンス」には、個性と視覚的な魅力を生み出すデザイン面での工夫が加えられた。MVRDV は、PPVC システムの特徴を活かし、それぞれのプレハブユニットが一つのピクセルを形成する「ピクセル化された」ファサード(建物を正面から見た外観)を採用した。

金属フレームを用いて、ユニットをへこませたり飛び出させたりすることで、多様なタイプのバルコニーを作り出し、建物の外観に奥行きと面白みを加えている。この視覚効果が金色とこげ茶色の配色と相まって、つる植物の有機的な形状からヒントを得た、抽象的なパターンをファサード全体に形成。繰り返される平面図の中に変化の錯覚を生み出すことで、凡庸にもなり得る建物に個性と視覚的な魅力をもたらすことに成功している。

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MVRDV Irwell Hill Residences © Finbarr Fallon

多様性、居住性が最優先。進化するPPVC

ピクセル状の外観は、シンガポールならではの豊かな緑を配した建物の共用施設を際立たせる役割も持つ。24 階には約 4 階分の高さを持つスカイガーデンが設けられ、タワー最上階には社交の場となる「アーウェル・スカイ」が配置されている。これらの区域では、標準のピクセルの 2 倍、3 倍サイズのフレームが使われ、内部の木々や植物を際立たせている。MVRDV の創設者でもある建築家のナタリー・デ・フリイスは、シンガポールは建築と都市計画において驚異的な革新性を示す都市であることを数十年に渡り証明してきたと説明。モジュール建築においてもリーダーシップを発揮しており、PPVC の利点を実感している国だとする。さらに、今回 MVRDV が目指したのは多様性と居住性を最優先した PPVC だと述べ、実用的な設計アプローチが同時に興味深く、多様性に富み、活気あるものとなり得ることを示したとしている。

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MVRDV Irwell Hill Residences © Finbarr Fallon

山川真智子

Webライター

早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。

山川真智子

Webライター

早稲田大学第一文学部卒業。レコード会社に勤務した後に渡米し、コミュニケーション学の修士号取得。米ノースウエスト航空機内誌の編集を経て、日本航空の機内エンターテイメントの選定買付に携わる。夫の転勤で通算9年の東南アジア滞在後、帰国して世界のニュースを紹介するライターに。現在は関西の片隅で、仕事の合間にフランス語学習に奮闘中。