【雪山に佇む一軒家の秘湯】「法師温泉 長寿館」で、“時間旅行の湯”に浸かる 小山薫堂の湯道百選 第111回

  • 写真:アレックス・ムートン
  • 文:小山薫堂
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〈群馬県利根郡みなかみ町〉
法師温泉 長寿館

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雪を踏む音が好きだ。クルマを停めてから宿の玄関まで足を滑らせないよう慎重に歩き、凍えながら波打つガラスの入った木の引き戸を開けると、石油ストーブの懐かしい匂いがした。ここは上州の深山に佇む一軒家の秘湯「法師温泉 長寿館」。玄関脇の囲炉裏部屋から薪の爆ぜる音が聞こえる。時間が止まる、という表現はこの宿のためにあるのかもしれない。

目指すは、国の登録有形文化財にも指定されている、鹿鳴館時代の面影を残す大浴場「法師乃湯」。敷き詰められた玉石の隙間から無色透明の石膏泉が自然湧出している、贅沢な源泉掛け流しの純温泉である。かつては44℃まで上がったり、震災の時には36℃まで下がったりと、地球のご機嫌次第でその温度は変わるのだが、最近は40℃を保っているという。枡ごとに微妙に温度が違うため、自分好みの浴槽を探して身を沈める。熱くもなく、ぬるくもなく、まさに絶妙の湯加減である。目を瞑ってその心地よさに浸った後、ゆっくり目を開くと、バロック様式の窓から差し込む光が、優しく立ちのぼる湯気を照らしている。湯という切符で、いつまでも時間旅行をしていたくなる。

聞けば3人がかりで手入れをしているらしい。週に一度、すべての湯を抜き、玉石一つひとつを裏返して汚れをとる。絶妙の温度と清潔な湯…自然と人に感謝する心で、身体はさらに温まるのだ。

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玄関そばの囲炉裏がある部屋は客同士でお茶を淹れるなど交流が生まれる場。この日は広報担当の岡村直さんが火をおこしてくれた。

 

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JR上毛高原駅からクルマで約30分。弘法大師が発見したという言い伝えから名付けられた。創業明治8年、「日本秘湯を守る会」にも登録。基本は混浴だが女性専用の時間もある。

法師温泉 長寿館

住所:群馬県利根郡みなかみ町永井650
TEL:0278-66-0005
営業時間:11時〜13時30分(日帰り入浴)
料金:一般¥1,500(日帰り入浴)、¥19,800〜(1名当たり1泊2食付)※入湯税別 www.hoshi-onsen.com