「大人の名品図鑑」ルパン三世編 #2
日本でいちばん有名な盗賊といえば、「ルパン三世」をおいてほかにいない。神出鬼没にして変幻自在の大泥棒。相棒の次元大介や、謎めいた美女・峰不二子らとともに、世界中の宝物を鮮やかに盗み出してきた。その一方で、どこか憎めない愛嬌を備えていることも、彼らが長く愛されてきた理由だろう。今回の名品図鑑は、そんな空想のキャラクターたちが愛用した名品に光を当てる、本連載でもひときわ異色のテーマでお届けする。
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ルパン三世一味の紅一点、“魔性の女”
『ルパン三世』における永遠の美女にして、一匹狼の女盗賊——それが峰不二子である。その美貌で男たちを翻弄し、ときには仲間すら裏切る。まさに“魔性の女”という言葉にふさわしい存在だ。
2015年発行の『Pen』315号では、原作者のモンキー・パンチが、「青年漫画だからお色気要員は必要だろうし、ボンドガールのような女の子がいい」と語っている。モデルとなったのは、高校時代に愛読していた『三銃士』に登場する悪女ミレディ。さらに名前については、彼が偶然目にしたカレンダーのタイトル「霊峰不二」から「霊」を取り、「子」を付けて「峰不二子」と名付けたと紹介されている。
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598通りの誘惑。峰不二子のファッション哲学
峰不二子のファッションは、実に幅広い。男性たちを虜にするセクシーなドレスから、颯爽と着こなす漆黒のライダーススーツまで、そのスタイルはまさに変幻自在だ。インターネット上には、彼女が作中で着用した598着を分類した「峰不二子 ファッション図鑑」というファンサイトまで存在するほど。その装いが、いかに多くの人々を魅了してきたかが伺える。彼女が纏った服のブランド設定を探る中で見つけたのが、『ルパン三世カルトブック』(双葉文庫)に記された一節だ。そこには「ドレス類→英国王室御用達デザイナーのノーマン・ハートネル氏が担当」という、興味深い記述がある。さらに、劇場用パイロット版の企画書には「ロードショウ時点での最新トップモードの要あり」とまで明記されており、当初から峰不二子は、“流行最前線を軽やかに着こなす女”として明確にイメージされていたことがわかる。
ノーマン・ハートネルは、エリザベス2世のウェディングドレスを手掛けたクチュリエとして知られ、ファッションデザイナーとして初めて「サー」の称号を授与された人物である。ルパン三世のジャケットに続き、ここでも英国王室と結びつく存在が登場する点は、実に象徴的だ。さらに調査を進めると、峰不二子が愛用していた香水が、「シャネル N°5」であると明記した資料にも行き当たった。1952年、米『TIME』誌のインタビューで、マリリン・モンローが「寝るときにはシャネル N°5を数滴だけ」と答えた、あの名香である。
その記述を確かめるべく、1977年放送のTV第2シリーズ第1話『ルパン三世 颯爽登場』を冒頭から見返してみた。すると、ルパンが偽物の不二子から届いた手紙を前に、「この手紙にはシャネルの5番愛用の不二子ちゃんの移り香が匂わない」と語る場面が、確かに登場する。峰不二子の香りは、「N°5」で間違いない。
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永遠の美女は、名香「シャネル N° 5」で完成する
シャネルは、ガブリエル・シャネルが1910年にパリで創業した、ファッション界を代表するメゾンである。彼女が発案したジャージー素材によるシャネルのスーツは、女性をコルセットの束縛から解放した画期的な存在として知られ、その後も時代を切り拓く数々のコレクションを発表し続けてきた。そして1921年、メゾン初の香水として誕生したのが「シャネル N°5」だ。
「女性そのものを感じさせる、女性のための香水を創ってほしい」──そんなシャネルの要求に応え、初代専属調香師エルネスト・ボーが創香。当時主流だった単一の花の香りとは一線を画し、80種類以上の天然香料に合成アルデヒドを組み合わせた“抽象的な香り”を完成させた。まさに、香水史に革命をもたらしたとされている。「N°5」という名の由来には諸説ある。ボーが提示した試作品の中から5番目をシャネルが選んだという説、あるいは彼女自身のラッキーナンバーが5だったという説も知られている。ボトルデザインもまた、象徴的だ。余計な装飾を排した直線的なフォルムに、栓とボディはエメラルドのようにカットされた端正な長方形。1959年には、その完成度の高さが評価され、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久所蔵品に選ばれている。
誕生から100年以上を経た現在も、「N°5」は世界中の女性を魅了し続ける名香。その香りも、ボトルデザインも、永遠の輝きを放っている。“永遠の美女”と呼ばれる峰不二子と、この香水がどこか共鳴するものを感じるのは、決して筆者だけではないだろう。
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