街で電気自動車を見かける機会は増えたが、なかでもボルボのコンパクトSUV「EX30」は、スカンジナビアデザインの端正さと、“人を中心に考える”安全思想を小さなボディに凝縮した存在だ。そこに新仕様「クロスカントリー」が加わった意味を確かめるべく、「EX30 クロスカントリー」に乗った。
ボルボ最小の「EX30」から、クロスカントリーモデルが登場
ボルボ「EX30」は、同社の電気自動車ラインアップのなかで最もコンパクトなモデル。全長約4.2mという取りまわしのよいサイズを活かし、都市部での扱いやすさを重視しながら、電動化時代におけるボルボの思想を凝縮した一台である。
安全思想は上位モデル同様、一切の妥協がない。運転支援システムや衝突回避技術は、サイズにかかわらず同等の考え方で構築されており、「小さいから簡略化する」という発想はない。
一方でインテリアは大胆なまでにシンプル。メータークラスターを設けず、情報はセンターの縦型ディスプレイに集約。素材にはリサイクルやバイオ由来のものが用いられているが、それをことさらに語らない点にも、いかにもボルボらしい慎みがある。
電気自動車であることを前面に押し出すのではなく、あくまで日常の道具として成立させる。「EX30」は、ボルボが次の時代に向けて示した“最小単位の完成形”と呼ぶにふさわしい存在だ。
その「EX30」に、新たな解釈として加えられたのが「クロスカントリー」である。ボルボにとってクロスカントリーとは、単なるアウトドア仕様やSUV的演出ではない。
その源流は、1997年に登場した「V70 クロスカントリー」に遡り、現在も「V60 クロスカントリー」がラインアップにある。ステーションワゴンをベースに車高を高め、雪道や未舗装路でも日常的に使える走破性を与えたこのモデルは、北欧の生活環境から生まれたボルボ独自の回答だった。特別な冒険のためではなく、日常の延長線上で行動範囲を少しだけ広げる。その思想はいまも変わらない。
「EX30 クロスカントリー」では、最低地上高を20mm高め、前後に専用のブラックパネルを装着。足元には専用ホイールが与えられ、走破性とデザイン性の両立が図られている。ただし、その表現はあくまで控えめで、力強さを誇示する方向には振られていない。
コンパクトEVである「EX30」に、あえてクロスカントリーという選択肢を与えた理由。それは、都市と自然を対立させるのではなく、両者をシームレスにつなぐという、ボルボが育んできた思想を電動化時代に改めて提示するためなのだろう。
車体に刻まれた座標とロゴ……、ディテールに宿るブランドの思想
「EX30 クロスカントリー」を特徴づけるディテールのひとつが、フロントおよびリアに配されたブラックパネルの意匠だ。一見すると抽象的に見えるが、そこには明確なモチーフがある。
フロントに刻まれているのは、スウェーデン最高峰・ケブネカイセ山の地形をもとにしたラインと、その座標のアートワーク。この山は多くのスウェーデン人に親しまれ、ボルボのデザイナーたちにとっても原風景のひとつとされてきた場所である。クロスカントリーという名が、単なるキャラクター付けではなく、どこから生まれた思想なのかを示すための印と言っていいだろう。
Cピラーパネルに刻まれた「CROSS COUNTRY」のロゴタイプも同様。初代モデルからほとんど変わらない書体が用いられており、新しさを競うよりも、時間の蓄積を重んじる姿勢が感じられる。
「EX30 クロスカントリー」を語るうえで欠かせないのが、そのサイズ感だ。全長約4.2mというコンパクトなボディは、都市部では取りまわしのよさとして素直に効いてくる。一方でクロスカントリー仕様では、最低地上高をわずかに高めることで、舗装の荒れた道や雪の残る路面にも無理なく対応できる余裕が与えられている。
ここで印象的なのは、クルマを「大きく見せよう」としていない点だ。SUV的なボリューム感で安心感を演出するのではなく、あくまでコンパクトなプロポーションを保ったまま、行動範囲を広げる。その姿勢は、先に触れたクロスカントリーの思想ともきれいに重なる。
足元に与えられた専用ホイールも、力強さを強調するための造形ではない。全体のバランスを崩さず、ボディとの関係性を整えるためのデザインとして機能している。結果として、街にあっても、自然の中に置かれても、「EX30 クロスカントリー」は過剰に主張しない佇まいを保っている。
情報を集約した、至極シンプルなインテリア構成
ドアを開けてまず感じるのは、情報量の少なさだ。「EX30 クロスカントリー」のインテリアは、ダッシュボード中央に配置された大型ディスプレイを軸に、徹底して要素が整理されている。メータークラスターを設けず、必要な情報を一箇所に集約することで、視線の移動は最小限に抑えられている。
この割り切りは、単なる簡素化ではない。スピーカーをドアから排し、ダッシュボード上部にサウンドバーとしてまとめた構成も、空間を静かに保つための選択だ。音は広がるが、装置は主張しない。その結果、室内には余白が生まれ、運転に集中しやすい環境が整えられている。ドアパネルの部品や配線を削減することで、環境負荷を低減と、ドアポケットが拡大しPCやペットボトルも余裕で収まる収納性確保を実現しているのだ。
素材の使い方にも、同じ思想が通底する。リサイクル素材やバイオ由来のマテリアルが積極的に用いられているが、それを意識させる説明はない。触れたときの質感や色調によって、自然と受け入れられるよう設計されている。サステナビリティを声高に語らず、日常の感覚として定着させる姿勢は、いかにもボルボらしい。
インテリア全体を通して感じられるのは、「電気自動車らしさ」を前面に出そうとしないことだ。未来感よりも、落ち着きと使いやすさを優先する。その選択は、街から自然へとシームレスにつながる「EX30 クロスカントリー」の性格を、室内空間でも裏打ちしている。
EVならではの滑らかさと、コンパクトSUVの扱いやすさ
試乗した「EX30 クロスカントリー」は、前後にモーターを備えるツインモーターAWD仕様。数値上の性能は十分に高いが、走り出してまず印象に残るのは、速さではなく扱いやすさである。
アクセル操作に対する反応は滑らかで、加速に唐突さがない。路面の状況が変わってもクルマの挙動は落ち着いており、ドライバーに余計な緊張を強いない。
悪路走破性を誇示するような演出はないが、舗装の荒れた道や滑りやすい路面でも、不安なく進んでいける余裕がある。それは、クロスカントリーが掲げてきた「日常の延長線上で行動範囲を広げる」という思想を、走りの面でも裏切らないものだ。
速さや刺激を求めるクルマではない。だが、どんな場面でもクルマの態度が変わらないことは、日常的に使ううえでなによりの安心感につながる。
「EX30 クロスカントリー」は、特別な冒険のためだけのクルマではない。都市と自然のあいだにある日常に寄り添い、構えずに少し先の風景へと連れていく。電気自動車が当たり前になる時代に、このクルマは走りの価値を静かに問い直している。

ボルボ EX30 クロスカントリー
全長×全幅×全高:4,235×1,850×1,565mm
モーター:交流同期式
最高出力:315kW(428PS)
最大トルク:543Nm
走行距離:500km(WLTCモード)
駆動方式:AWD(全輪駆動)
車両価格:¥6,490,000
問い合わせ先/ボルボ・カー・ジャパン
www.volvocars.com


