京都・伏見に生まれた400年の酒蔵、月桂冠。伝統を守りつつも、そこには常に“革新”への志があった。2021年に立ち上げられた「Gekkeikan Studio」は、既成概念に縛られない自由な酒づくりに挑む実験室だ。過去に「no.1」から「no.5」までのスタイルを世に送り出し、日本酒の可能性を広げてきたこのプロジェクトに、「木材と日本酒の香りの調和」をテーマにした新たな一杯「no.6」が加わった。
ベースとなるのは、糖質ゼロの“超辛口清酒”。そこに、アメリカンホワイトオークと国産杉という性質の異なる2種の木材で仕立てた樽の香気が、絶妙に馴染む。
口に含むと、まずオーク由来のまろやかな甘みがふわりと広がる。杉の清らかな香りが鼻腔を滑り抜け、最後には鋭く切れる辛口の輪郭があらわに。まるで時間が刻まれたような、層のある味わいが魅力だ。木の甘香は、直火で焼き付けた樽(チャーリング)によって引き出されたバニラやカラメルのニュアンスを纏い、ウイスキーのような重厚さと、日本酒の繊細さが共存する。
温度が変わるたび、酒の顔がほのかに揺らぐのもユニーク。常温ではバランスよく穏やかに、ぬる燗にすれば木の甘香が静かに立ち上がり、ロックにすれば透明感と木の輪郭が鋭く浮かぶ。
「Gekkeikan Studio」の興味深さは、実験を繰り返すことで“偶然を必然に変える”ところにある。「no.6」もまた、桜、栗、水楢……あらゆる木材を試し、数十のサンプルを精密分析にかけた末にたどりついた。オークと杉の組み合わせは、異なる分子の香気成分が奏でる重層的な余韻を実現させ、「酒が時間を携え、記憶とともに響く」ことを目指した挑戦だ。
伝統に根ざしながらも、日本酒の既成概念に革命を起こすこの一本を、味わってみてはいかがだろうか。