フードエッセイストで、菓子ブランド「ノー・レーズン・サンドイッチ」のクリエイティブディレクターを務める平野紗季子さんを迎え、愛される商品やお店のブランドづくり、届け方について学ぶトークセミナーが11月14日、W大阪で開かれた。全国のショップオーナーやこれからブランドを立ち上げたいと考える約100人が参加したイベントの様子をレポート。
セミナーは、クレジットカードをはじめ、さまざまなサービスを全世界で展開するアメリカン・エキスプレスとの共同企画。アメリカン・エキスプレスは、街の魅力を支える小規模店舗を応援し、地域の活性化を目指す取り組み「SHOP SMALL®」を2017年から日本で展開している。その一環として、小規模店舗のビジネスオーナーの悩みやニーズに寄り添い、店舗づくりの未来に役立つ学びの場を提供している。
ゲストは、フードエッセイストとして活躍し、2018年から菓子ブランド、「ノー・レーズン・サンドイッチ」を展開する平野紗季子さん。子どもの頃からレーズンが大嫌いだった彼女だが、周りの人が幸せそうにレーズンサンドを食べている姿を見て、「レーズン以外の果実が挟んであるサンドを食べてみたい」と、ブランドを立ち上げた。
立ち上げ当初は、菓子店の一角を間借りして販売する小さなビジネスだったが、21年に法人化、25年3月には「お菓子の殿堂」と呼ばれる東京駅構内のグランスタ東京に初の実店舗をオープン。同年5月には朝の情報番組で「東京駅で本当に喜ばれるお土産」第1位に選ばれるなど、多くの人に愛されるブランドへと育っていった。
小さなビジネスが故に広告費を割けない状況だったが、「自分が食べたい、作りたい、届けたい」という"極めて個人的な欲望"を大切にしたことが、結果的に多くの注目を集めるきっかけになったのではないかと平野さんは振り返る。
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ブランドをつくる上で平野さんが大切にしているのが、「おいしくあること、かわいくあること、アイデアフルであること」。おいしくて、デザインにこだわるのはもちろん、「人に言いたくなる"フック"になるものをひとつでも残す」ことを心がけている。25年にオープンした実店舗のカウンター内にも「カプセルトイ」を設置。「お菓子を買うとガチャが回せる!」と話題になり、いまでは売上を支える仕掛けになっているという。
「『絶対こんなこと実現できないでしょ?』というものを実現していくことにやりがいを感じる」という平野さん。ブランドを届ける上でも、"なるほど"より"まさか"を大切に、さまざまな仕掛けやIPコラボを実現してきた。
「私は、ブランドは『自分の夢を叶えるフィールド』だと思っている。できそうもないことを、頭を捻って考えて、現実のものにしていく。大変なことも含めて、ブランドが育っていく過程はとても大事だと思っています」
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「お店をやっている人の人生は、全部コンテンツになる」。だからこそ、ブランドを届けるためには、商品そのものではなく、その背景にある過程をシェアすることが重要だと平野さんは話す。
「ブランドを育てていく過程で、どんな苦労があって、何がうまくいったのか、いま何が希望で、何がつらいのか、伝われば伝わるほどいいと思います。オーナーさんの顔が見えたり、思いを発信していたりする方のブランドには愛着が持てる。最初は投稿しても途中で発信をやめてしまう人は多いのですが、挫けず、発信を続けることが大切です」
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大きな岐路に立った時には、「自分自身がこのブランドのいちばんのファンでありたい」という思いを軸に決断を下してきたという平野さん。7年かけてブランドを成長させてきた時間は、大切な思い出だったと振り返る。
「成長はゆっくりでいいんじゃないかと思っています。部活のように始めて、実店舗ができたのが7年目。普通のビジネスで考えたら相当長いスパンだけれど、ゆっくりやっていかないと、思い出にはならないから」
ブランドを立ち上げたり、店舗の責任者になると、つらいことを共有できず、孤独を感じることもある。それでも「全国に同じように頑張っている仲間がいる」と励まされるという平野さん。会場に集まった参加者に向かって「みんなで支え合っていきましょう」とエールを送った。
