【まるで風の谷のグライダー】ホンダ新型「プレリュード」が描く、感性による“気持ちよさ”とは 東京車日記第234回

  • 写真&文:青木雄介
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新型「プレリュード」は自由滑空を想起させる“Unlimited Glide”を旗印にした2ドアクーペ。

ホンダが24年ぶりに復活させた新型「プレリュード」には感動した。もうね、未来への決意に満ちていた。普段はしんと静まり返っていて、速度を与えられるとステアリングやフレームに瑞々しい力が流れる。開発では「グライダーをイメージした」ということだったんだけど、まさか本当にグライダーのような乗り物を造るとは思わなかったんだな(笑)

“グライダー思想”がもたらす、新しい運転感覚

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「Honda S+ Shift」によるギア変速模擬とエンジンサウンド演出で、ハイブリッドという枠を超えた運転感覚を追求。 

「プレリュード」は『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』といった宮﨑駿作品に登場する小型グライダーや揚力機付き飛行機を思わせた。風や高度といった自然の原理に忠実で、存在する力に抗わず利用しながら乗りこなす。自ら発生させる推力は最小限に、機動性は高めながらもしなやかさを失わない。

峠の下りはそんな低空飛行のグライダーみたいで、本領発揮していた。ほぼ自重で坂を下るイメージでエンジンの推力を纏い、迫る波を乗りこなすようにカーブをクリアしていく。ステアリングが自然で軽快で、ため息が出るほどの平衡を保ち続ける。トルクベクタリングがなくても、接地性の高い足まわりと軽やかな重心移動、そしてフレームの強度だけでコーナリングしていく。

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グライダー思想に基づき、ホンダ初採用の「コースティングコントロール」を搭載している。

横Gに対して足まわりの減衰力を拮抗させる、従来のスポーツカーの硬質なコーナリングとは違い、サーフィンで膝を使うことで素晴らしい旋回能力をみせるような曲線的なライド感が持ち味。その速度の機微を調整する疑似シフトである「Honda S+ Shift」もデュアルクラッチのように即妙に応答する。ショートホイールベースでワイドトレッド化されたプレリュードの素性は、安定したハンドリングを生み出す。プレリュードは、「シビック・タイプR」譲りの高剛性フレームとアダプティブダンパーを身に纏っていることも忘れてはいけない。

航空機開発の経験が導いた、ホンダならではの感性的な走り

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低重心・水平基調インストパネルなどドライバーオリエンテッドなコクピット。 

「プレリュード」は、いわゆる現代のホットハッチの完成形である「シビック・タイプR」の派生版にして、まったく性格の違うスポーツカーとして生まれ変わった。そして本当にユニークなのは、最新の制御を積み上げた結果の乗り味ではなく、選択の結果が“感性”に基づいている点なのだ。

現代のクルマづくりは、数値を極めて相反する性能を両立しようとすると、どうしても似通ったフィーリングに収斂していく。ところが同時代において「プレリュード」に似たスポーツカーはない。このクルマは確かなスポーツ性能を持ちつつ、台風の目の中にいるような静謐と、コースティング走行にみられるような“意識された間”があり、余白が走り全体を包み込んでいる。

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ホンダ独自の2L直列4気筒+2モーターのハイブリッドシステムを搭載。

このドライバビリティは、まさに宮﨑駿の映画を思い出させる。たとえば『ナウシカ』でメーヴェが大気の層を滑っていく様子や、『ラピュタ』でフラップターが雲間を抜けるあの浮遊感。フィジカルなメカ描写に自然への畏敬が重なり合う、あの独特の感性が感じられる。プレリュードの走りには、宮崎映画と同様に機械と自然の境界に立つ“操縦者の存在”が意識されているんだ。

ここで強調したいのは、これが単なる比喩ではなく、ホンダだからこそ辿り着けた感性なのかもしれないという点だ。ホンダは自動車メーカーでありながら航空機開発を自前で行ってきた企業。ホンダジェットの開発では推力競争ではなく空力効率を極限まで磨くという、いわば“空気と共生する”思想が貫かれている。主翼上エンジンや自然層流翼といった発想も、空の大気をどう読み、どう受け止めるかという原点的視点から生まれたもの。

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ハッチバックの充分なトランク容量。後席を倒せばゴルフバックが2つ収納できる。

だから「プレリュード」の走りに、まるで“風の中を泳ぐ”ような繊細なエモーションが宿るのは必然とも思える。環境と調和しながら性能を引き出す。その感性は宮﨑駿作品に通じる“科学と自然の折り合い方”に似ている。そして最先端の制御を駆使しながらも、最後は手触りの感性で仕上げていく。そこには、どこか手書きのアニメーションのような優しさが漂っている。

20数年ぶりに復活した「プレリュード」が、懐古ではなく“新しい気持ちよさ”で勝負してきた背景には、この日本らしい感性と、ホンダが積み重ねてきた航空工学の哲学が息づいている。あの軽やかさは、ただクルマがよく曲がるという話ではなく、「どう自然と共にあるか」を問い続けてきたメーカーが示した、ひとつの答えなのかもしれない。

ホンダ プレリュード


全長×全幅×全高:4,520×1,880×1,355㎜
パワートレイン:直列4気筒+2モーター(e:HEV)
エンジン最高出力: 141ps(104kW)/6,000rpm
エンジン最大トルク: 182N・m/4,500rpm 
モーター最高出力: 184ps(135kW)/5,000-6,000rpm
モーター最大トルク: 315N・m/0-2,000rpm
駆動方式:FF(前輪駆動)
車両価格:¥6,179,800

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TEL:0120-112-010
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