米ノースカロライナ州で毎年開催される祭典「カロライナ・クラシックフェア」で、水上スキーをするリスの「ツィッギー」が観客を魅了している。ボートに引かれ軽やかに水面を滑る姿は、1979年から45年以上続く伝統芸だ。
小さなスターに拍手喝采
カロライナ・クラシックフェアは今年、10月3日から12日まで開催された。州で2番目に大きな祭典で、毎年27万5000人以上が訪れる。
その中でもひときわ注目を集めているのが、水上スキーをするリスのショーだ。「ツィッギー」と名付けられたリスのパフォーマンスが始まると、会場の他のエリアから目に見えて人の姿が減っていくほどの人気ぶりだ。米ラジオ局の96Kロックは、「大勢の観客がツィッギーを見るために遠方からも訪れている」と報じた。
ショーでは小さな救命胴衣を身につけたリスがミニチュアサイズの水上スキー板に乗り、ラジコンボートに牽引されながら水面をスムーズに滑っていく。今年は米NBC系列で全国放送され、全米の話題をさらった。
NBC系列WANDのニュース番組の映像では、水しぶきを上げながらショーをこなす様子を放送。ボートの上でよちよちと体を回転させる姿に、スタジオからは「スリーシックスティー(360度回転)とは印象的だね!」との反応が。ぎこちなくも可愛らしい姿で魅了する。
救命胴衣に込められた願い
演技をしているのは11代目のツィッギーで、本名を「ザ・ベイビー」という5歳のメスのリスだ。
ツィッギーはショーで必ず救命胴衣を着用しているが、これは単なる飾りではない。安全のシンボルとして、深い意味が込められている。
ある年、ベスト氏の家族が川でボート遊びをしていると、悲劇に見舞われた。義理の祖父が船から転落したのだ。これを助けようと飛び込んだベスト氏の父親が、心臓発作を起こして溺れてしまい、帰らぬ人に。
ベスト氏は、「もし父か義理の祖父のどちらかが救命胴衣を着用していれば、父は今日も健在だったでしょう」と悔やむ。
これを機に、ベスト氏の母親は夫との思い出を胸に、手製の救命胴衣を作ってショー中のリスに着せるようになった。水上の安全確保の大切さを訴える、悲劇の体験からのメッセージだ。
泳ぐのが大好きなリスたち
ツィッギーは水を怖がることなく、むしろショーでの演技を楽しんでいるという。
トレーナーのチャック・ベスト・ジュニア氏は、フロリダのニュース局によるポッドキャスト番組「フロリダズ・フォース・エステートの取材に応じ、リスたちは泳ぐのが大好きだと語った。
万一ツィッギーが嫌がるような場合、ベスト氏は演技を中断している。「働かせすぎることはありません。滑るのをやめてしまいますから」とベスト氏は明かす。
リスでありながら、ツィッギーは実に雄弁だ。気分が乗らないと「やだね、滑らないよ」とでも言いたげに態度で示す。水に飛び込んだり、気が散ってボートに飛び移ったりし始めると、「演技に飽きましたよ」の合図だ。こうなるとベスト氏は無理強いせず、その日はもうおしまいにするという。
ハリケーンの日にリスと一家は出会った
何ともめずらしいこのリスのショーは、起源を1979年のハリケーンに遡る。
当時、フロリダ州中部にハリケーン・デビッドが襲来。UPI通信によると、赤ちゃんリスが巣から吹き飛ばされたところを、ベスト氏の両親が保護した。
一家には当時、長女のおもちゃであったラジコンボートが眠っていた。そこで父親は、バスタブにボートを浮かべ、家族に内緒でリスの訓練を開始。ベスト氏はフロリダズ・フォース・エステートのインタビューに、最初は「完全に冗談だったようです」と明かしている。
しかし、父親が繰り返し訓練をし、成功するたびに愛情を込めて抱きしめキスをしてやるうちに、わずか1カ月ほどで「水上スキーができるリスになりました」。予想外に短い期間で乗りこなすようになった。
こうして初代ツィッギーが誕生すると、突然技を披露された家族を心底驚かせただけでなく、地元紙にまで掲載され話題になったという。
個性ある歴代のツィッギーたち
これまでに合計11匹のリスが「ツィッギー」の名を継いできたが、それぞれ違った個性がある。現在は9代目、10代目、11代目の3匹が現役として活躍している。
ベスト氏は、「リスによって滑り方が異なるんです」と語る。例えば「ザ・ベイビー」は、水に飛び込むのが好きで、泳ぎを特に楽しんでいる。同じく現役の「ツィグレット」は抱っこされるのが大好きな甘えん坊だ。
個性を生かしたショーを展開するのが肝心で、「ショーは彼らが作るものです」とベスト氏はいう。ショーの展開は回ごとに異なり、だからこそ何度も訪れたい魅力になっている。
トレーナー役を父から引き継いだベスト氏は、水難事故で亡くした父への思いを胸に、今年も全米ツアーを続けている。母は最近彼に、「父親はあなたを誇りに思っていることでしょう」と、そっと語った。
45年以上続く伝統芸は、今日も安全への願いを宿しながら、全米各地の観客を夢中にさせている。
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