【離島でスモークサウナ】日本で“フィンランド級”の熱と香りを。宮城・出島「JUURI SAUNA」がすごかった

  • 文:岩田リョウコ
Share:

サウナのドアを開けるとふわっと独特なスモーキーな香り。そしてなにより熱が柔らかくて、優しくて居心地がいい。それがスモークサウナです。サウナの中でも特別な存在で「キング・オブ・サウナ」って言われています。入る準備をするのにすごく時間と手間がかかるし、しっかりとした知識がないとスモークサウナは操れない。というのも熱源が余熱なんです。まず締め切ったサウナ室で何時間も薪を焚いて熱と煙でいっぱいにします。その後、時間をかけて煙を外へ逃して余熱でロウリュして入るのがスモークサウナです。これができる環境というのが日本にはなくて、わたしが何度もフィンランドへ行く理由はスモークサウナが味わえるというのも大きな理由でした。

でも11月のある日、わたしは日本にいたはずなのに、フィンランドにワープしたのかと錯覚しました。宮城県女川町の出島にあるJUURI SAUNAで。ここ、なんとスモークサウナなんです。

IMG_6085.jpeg

女川町から橋を渡ると出島(いずしま)に着きます。橋が作られるよーという話が出てから60年。2024年の12月にやっとできたそうです。それまでの本土との行き来は1日に3便しかない船。住民は約70人。島には自動販売機が一つだけ。わたしが今まで訪れた世界中の場所で一番人が少ないところです。運転しながら思っていたことはひたすら「なんでここにサウナを作ることになったんだろう、早く知りたい!」でした。

IMG_6141.jpeg
遠くに見える白い橋が去年できたばかりの「出島大橋」。

JUURI SAUNAのオーナーは鹿又 陸さん。生まれは宮城県塩竈市。大学で土木を専攻して、横浜市役所港湾局で東京湾の海洋環境の調査の仕事をしていた方です。サウナを作りたいと思った時に、やはり自然環境が豊かなところでやりたいということで、2年前に宮城に戻ってきて、サウナ作りを始めたそうです。

IMG_6158.jpeg

「サウナを作りたいと思った時に森づくりを一緒にやりたいと思ったんです。日本には管理されていない山・森がたくさんあります。木を切って森を管理して、切った木でサウナを作って、薪をくべて、サウナで出た灰を森へ返す。サウナを通して森を循環させるというのをやりたかったんです」と鹿又さんは教えてくれました。


サウナは本当にフィンランドの森にあるスモークサウナそのもの。日本でこの熱、湿度、香りを味わったのは初めてでした。どうやって日本でスモークサウナをやることになったのかも聞いてみました。

IMG_6084.jpeg
サウナ小屋の前にあるコミュニケーションスペース。ここでおしゃべりが止まりませんでした。

鹿又さん:「スモークサウナはフィンランドでも貴重で神聖なもので、その思想に惹かれてスモークサウナをやりたいと思っていた。いろいろ探して、煙突があってスモークサウナの使い方ができるストーブを見つけて、これに決めました。ずっとスモークだと室内が熱すぎるので、半分スモークで後半は煙突排煙にして後半の火入れで室内を冷ますようにしています。これができるストーブにしてよかったなって思っています」

IMG_6097.jpeg
巨大なストーブ内には、なんと500キロのサウナストーンが。

 

IMG_6100.jpeg
ドア周りが黒くなっているのは、スモークサウナの証。

日本の法律や環境、このサウナ室にあった完璧なストーブだったってことですね。ストーブの上部をあけてロウリュするスタイル。日本では見たことがないストーブです。でも外に出ると日本の海と山が見えて「あ、そうか。日本だった」って戻るような感じです。

IMG_6089.jpeg

そして実際に山に木を切りにいくのに鹿又さんが連れて行ってくれました。山をロープを持ちながら降って(それくらい急な道なんです!)、木を切るエリアまで行きます。チェンソーで今日使う薪用の木を切りながら、ここで切った丸太でサウナを作ったと教えてくれました。

IMG_6149.jpeg

ちょっと待った。この急勾配の坂で巨大な丸太を引き上げて、さらに1日3便しかない船で運んだってこと……。ここまでの自分で切った木を使って組み立てたからこそ、鹿又さんはご自分のサウナの操り方を熟知しているんだろうなと感じました。

IMG_6154.jpeg

鹿又さん:「ここは戦後に植えられた杉がいっぱいなんですけど、漁業の島なので森を管理する人がいないんです。そうなると森が枯れていってしまいます。もともと流れていた沢も枯れてしまって。森が枯れる原因は、木が密集して植えられているから、日光が地表に当たらなくて下草が枯れてしまうからなんです。それで木を間引く作業が必要になるんですが、間伐した木を使って、サウナを建てて、薪を使っています。燃やした後の灰はアルカリ性なので、酸性化していく土壌にアルカリ性の灰を撒くことで中和されてます。サウナで森を蘇らせていくのが目標です」

IMG_6106.jpeg


でも、このエリアを間伐しはじめてから沢が少しずつ戻ってきてるんですよ、と教えてくれました。水が少し流れ始めていて、それが海へ続いていました。

IMG_6145.jpeg

鹿又さん:「豊かな森がないと海も良くならないので、まずは森づくりから。宮城に住んでいても出島を知らない人は多いので、JUURI SAUNAをきっかけにたくさんの人にこの地域を知って欲しいと思っています」


わたしは、震災の時はアメリカに住んでいて、帰国してからも被災地には行けてなかったこともあって、JUURI SAUNAをきっかけに石巻、女川、そして出島を巡ることができてよかったなって思っています。鹿又さんが初めて出島に来た時に、「何もないことが本当に贅沢に感じた」とおっしゃっていましたが、スマホをポイっとして木を眺めている時間はパワー全開の充電をくれたような気がします。

IMG_6125.jpegスモークサウナの香りがついた水着、洗濯したくなかったです。またこの香りをまといに、そして自然に溶けるために、すぐに戻りたくなる場所でした。

JUURI SAUNA

〒986-2211

宮城県牡鹿郡女川町出島字別当浜2-33

https://juurisauna.com/
info@juurisauna.com

料金:1グループ3時間貸切
【平日】1〜4名まで34,000円、5名以上の場合、追加料金8,000円/人(8名まで)
【休日】1〜4名まで36,000円、5名以上の場合、追加料金8,500円/人(8名まで)

※完全予約・貸切制
※男女での利用可
※水着のレンタルはオプション
※バスタオル、ハマムタオル、外気浴用靴下は料金内

営業時間:10:30〜19:30
定 休 日:火曜、水曜、不定休

岩田リョウコ

文筆家、イラストレーター

コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
Instagram / Twitter / Official Site

岩田リョウコ

文筆家、イラストレーター

コロラド大学大学院東アジア言語文明学科卒。2009年から外務省専門調査員として在シアトル総領事館勤務。在米中に出版した『COFFEE GIVES ME SUPERPOWERS』がベストセラーとなり世界5ヵ国で翻訳出版されている。サウナ愛好家でもあり、フィンランド政府観光局サウナアンバサダーに任命されている。著書に『週末フィンランド』、『エンジョイ!クラフトビール』、『コーヒーがないと生きていけない!』、『HAVE A GOOD SAUNA!』がある。
Instagram / Twitter / Official Site