
和の伝統美と近代の抽象アートとが融合した庭。
明治時代に再建された重厚な木材建築。
膨大な樹木に囲まれた森の異空間。
京都駅から1駅、徒歩15分のアクセスのよさ。
なのに……人が誰もいないじゃないか!
とんでもなく静か。
最高かよっ!
ここぞ “ザ・京都” だっ!

2024年6月に訪れたとき、人ガラガラ。
25年9月に訪れたとき、人ガラガラ。
空間をひとりで独占できた素晴らしい体験。
オフシーズンで平日の午前中という好条件だったものの、平日でも伏見稲荷、銀閣寺、嵐山の竹林などは異常な混雑ですからね。
朝の通勤ラッシュに例えたくなるほど大量に人が押し寄せてます。
局所的なんでしょう、京都の混雑というのは。
国内外のツアーコースに組み込まれた観光地(主に世界遺産)ばかりがたいへんな状況になってます。
今年9月から11月に掛け取材仕事で4回京都を訪れましたが、「古都に期待する風情に浸れる場所はかなり限られる」と感じました。
そんな現在の京都事情において、皆さんにお伝えしたい超穴場がここ、「東福寺(とうふくじ)」です。

「なにもかも素晴らしい寺なのに、なぜ人がいない?」と思っていたら、ここは紅葉の名所で11月〜12月には参道の橋に立ち止まることさえ許されない(ずっと歩き続けるように促される)ほど激混みすることを知りました。
「紅葉のときだけ行く」、そんな寺のようです。
佗び・寂びの趣や、木材建築のストイックな空間にこそワクワクする人は少数派なのかもしれませんね。
この記事をご覧いただいている方はわたしと趣味が似ていると思いますが。
そんな同士の皆さまに、見どころを3つお話しましょう。
1. 東西南北に4つある、グラフィカルな庭。
2. 最寄り駅から歩く道の景色。
3. 京都らしさ全部入り。


計算されたランダム配置の市松模様グラデーション。
苔の盛り上がり方も異なる、立体的なぼかし表現。
これぞ東福寺の最大の見どころ。
わたしが初めてここを訪れた目的もこの庭を見ることでした。
作庭家、重森三玲(しげもり・みれい)が1939年につくり上げたものです。
抽象的モダンアート全盛時代のグラフィカルな発想と、古い寺とが調和する見事な空間美。

ただ現地に行くと、写真より枯れたニュアンスを感じると思います。
緑はこれほど鮮やかじゃないですし、乾いて荒れた庭という印象。
華やかさは期待しないほうがよろしいかと思います。
ここに来るといつも、作庭されたときの様子を考えます。
「寺との調和と、自身の作家性との狭間で葛藤してつくり上げたのだろう」と。
当時とは姿が変わっているかもしれませんが、生きた植物を使った作品が時を超え現在まで続いているのは素晴らしいですね。
維持する労力も相当なものでしょう。
多くの人の手が未来へと繋げている庭です。
ここ「本坊庭園(ほんぼうていえん)」(本坊は僧侶の住居のこと)の重盛作の庭は、東西南北に異なる様相のものが設置されています。
市松模様の苔庭は「北」。
「南」は ↓


砂を海に見立てた枯山水のモダンな表現。

「西」は↓

ここも市松模様です。
植木が1ブロックだけちょっと弱ってるようですね。
昨年は元気だったけどなぁ。
(記事内写真は25年9月撮影)
天然植物は維持管理がたいへんです。
さて最後は「東」 ↓

小さく目立ちにくい庭ですが、ここも美しい!
北斗七星を表しているそう。
円柱は廃材の柱石を使ったもの。
作庭にあたり寺は禅の「一切の無駄をしてはならない」との考えから、重森さんに本坊内の素材を廃棄しない再利用を求めたそうです。
この条件を満たしたものが、東西南北の庭なんですね。
現代の都会でポップアップショップを莫大なお金と材料を注ぎ込んでつくり込み、期間が終わると取り壊すファッションブランドはその後の廃材をどうしているのでしょう……?

さて、見どころ2番めの参道の話に移ります。
最寄りの「東福寺駅」から歩いていく道のりを便宜的に参道と呼ぶことにします。
この道のりがまた素晴らしく、これがあるからタクシーで乗り付けることはしないのがベター。
せっかくの東福寺訪問の楽しさを半減させてしまいますから。

道路沿いが古都の風情に満ちています。


この臥雲橋(がうんきょう)が紅葉の季節になると歩けないほど人が密集することになります。
というのも、

この眺めですから。
ここが真っ赤、真っ黄色に染まっていくようです。
無料で歩ける橋ですし、そりゃ絶景と呼ばれる観光名所になりますよね。
わたしは植物の生命力を実感する緑の葉が好きなもので、ふだんの景色で大満足。
より高い位置から眺めたい人は、上写真の奥に見える境内の通天橋に行きましょう。
拝観料金は、紅葉期間11月15日〜12月7日限定で、大人1,000円(ふだんは600円)。
ふだんなら500円の本坊庭園との共通拝観料1,000円がお得です。
(紅葉期間は共通券が販売されません)
では同記事の最後は、見どころ3番めの「京都らしさ全部入り」について。

重森作の庭がある本坊庭園を中心に、素晴らしいマテリアル、造形が至るところに見られます。
もし旅のついでに京都に立ち寄る時間があり、「ひとつだけ寺に行ける」って人はこの東福寺を選ぶのがベストではないでしょうか。
京都が全部詰まってます!
足りないのは抹茶スイーツくらいかなぁ。
ま、そこは電車でわずか1駅の京都駅に老舗の和カフェありますし。
舞妓さんで名高い祇園まで出かける手もあり。
というのも、最寄りの東福寺駅から祇園四条駅まで、電車でたった6分の距離なんですよ。
なんという観光客に優しいアクセスのよさ。



寺の本来のあり方は、仏法を説く場なのでしょう。
都会暮らしの大人に日本の魅力を気づかせてくれるありがたい存在でもあります。
これまで寺に親しんでこなかった人も、紅葉を過ぎ(12月中旬以降)落ち着いてからの東福寺を狙ってはいかが?

ファッションレポーター/フォトグラファー
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
ご相談はkazushi.kazushi.info@gmail.comへ。
明治大学&文化服装学院卒業。文化出版局に新卒入社し、「MRハイファッション」「装苑」の編集者に。退社後はフリーランス。文章書き、写真撮影、スタイリングを行い、ファッション的なモノコトを発信中。
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